リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第21回)〜なぜ自社の存在意義を考え、それを成文化するのか?~

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リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第21回)
〜なぜ自社の存在意義を考え、それを成文化するのか?~

 

こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。

誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。

このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。

前回の記事(第20回)では、「インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングとは?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第20回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)

顧客満足を実現し、支持され続けるためには、従来のマーケティングだけでは足りず、インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングが必要な時代になってきたというお話でした。

さて、今回のテーマは「なぜ自社の存在意義を考え、それを成文化するのか?」です。

経営判断に迷った時ほど自社の存在意義を問い直すことが大切だとよく言われます。

また、自社の存在意義を成文化することも会社組織を運営していくために大切だと言われます。

なぜ、このようなことが言われているのでしょうか?

そこで、今回は「自社の存在意義とその成文化」について具体的にご説明して参ります。

それでは行ってみましょう!

 

1.戦略と戦術の関係性とは?

自社の存在意義を考えるための前提として、まずは戦略と戦術の関係性についてご説明したいと思います。

前提として戦略と戦術の関係性を理解しておくと、自社の存在意義を考えることの意味も分かりやすくなるからです。

自社の存在意義は、戦略を考えるための出発点となるものです。

そして、戦略は戦術を考えるための方向性や枠組みを示してくれるものです。

したがって、自社の存在意義を考えるための重要な前提として、戦略・戦術の意味とその関係性について理解しておきましょう。

短期的な観点からは、効率性を求めて日々の業務を改善し生産性を高めることで、利益に結びつけていくことが大切です。

しかし、それだけにとらわれて期日の迫った単純な仕事が目の前に山積みになっていると、人間は長期的観点からの重要な計画などは考えられなくなってしまいがちです。

人間が一度に処理できる頭脳の容量や体力には限界があるからです。

ルーチンの仕事はノン・ルーチン(創造的)な仕事を駆逐する」という計画のグレシャムの法則に陥りがちなのです(第1回記事参照)。↓

リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第1回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)

目の前の仕事に追われがちな毎日だからこそ、長期的な観点から根本的に仕事のやり方を見直したり、自分たちが一体何をやっているのかを問い直す必要があります。

つまり、仕事の仕組み自体を戦略的に見直すことで、長期的に適切な形でビジネスを遂行していけるようにするのです。

そうしなければ、明日もまた昨日までと同じ苦労の繰り返しが続いてしまうからです。

また、短期的な観点からばかり仕事をしていると、視野が狭くなり、刻一刻と変化し続けている市場環境に気がつかなくなります

市場環境の変化は、今まで有効に機能していた戦略でさえも、やがては陳腐化させてしまいます。

そのため、企業は、短期的には経営の効率性を維持しているにもかかわらず、長期的には戦略の有効性を失ってしまうことがあるのです。

したがって、戦略の前提になっている市場環境が変化している以上、その変化に合わせて柔軟に戦略を修正したり、練り直したりして、事業の有効性を取り戻すことが必要です。

戦略は大枠の方向性を示す基本地図・計画ですので、コロコロと変えるものではありませんが、不変のものでもないのです。

ここまでに「戦略」という言葉が何回か出てきました。
ここで改めて戦略と戦術の意味について復習しておきましょう(詳しくは第1回記事を参照)。

戦略」とは、近い将来達成したいと思っているあるべき姿(目標)を描き、そのあるべき姿を達成するために自分の経営資源と適応するべき経営環境とを関係づけた地図と計画(シナリオ、ストーリー)のことです(沼上、2008年)。

つまり、長期的な視点から大筋の方向性を定め、現在地と目標を結ぶストーリーのことです。

歴史上、優れた戦略には聞いた人を納得させ、感動させるようなストーリー(=物語)があります。

他方、「戦術」とは、目の前の課題を解決するための効率的なやり方のことです。

いわば、短期的な個別課題を解決するための効率的な方策のことです。

ここで、戦略と戦術の関係性について大事なポイントがあります。

それは、戦術的失敗は戦略的勝利によって挽回できますが、戦略的失敗は戦術的勝利によっては挽回できないということです。

理由は、歴史の教訓が示しているからです。

有名な事例として中国の楚漢の戦いがあります。

後に漢帝国を築いた劉邦は、ライバル・楚の項羽に戦術的な敗北を続けました。

しかし、戦略的に項羽を孤立に追い込み、自軍の兵士と兵糧を確保し、反項羽勢力を結集させることができたため、最終的に勝利できました。

優れた戦略があれば、いくつかの戦術的失敗を挽回することができるという良い例です。

したがって、戦略と戦術の関係性については、戦術よりも戦略の方が重要であり、戦略は戦術を支配する概念であると言えます。

著名な経営学者であるピーター・ドラッカーも、「物事を適切に行うこと(=効率性:戦術)よりも、まさに適切なことを行うこと(=有効性:戦略)」の重要性を主張しています。

「物事を適切に行うこと(効率性)」というのは、目の前の物事自体が適切であるかどうかにかかわらず、それを効率的に処理することであるため、「戦術」的な発想に近いです。

他方、「適切なことを行うこと(有効性)」というのは、何が適切なことであるのかは長期的な観点から検討しなければ分からないため、「戦略」的な発想に近いです。

もちろん、実際のビジネスを適切に経営していくためには、戦略も戦術もどちらも軽視できません。

しかし、計画のグレシャムの法則が言う通り、日々の業務に追われるうちに、ビジネスの有効性(戦略)の検討が忘れられがちです。

したがって、戦略の重要性に鑑み、リーダーはあえて定期的に戦略を見直すことで、長期的に適切な形でビジネスを遂行していけるようにしましょう

 

2.なぜ自社の存在意義を考える必要があるのか?

あらゆる組織は、自社の製品やサービスを必要としている人たちに提供することで、その対価として報酬(金銭その他)を受け取っています。

そして、組織がどういった内容の製品やサービスを作り、誰に提供するかは、組織が掲げる存在意義(ミッション、使命)によります。

あらゆる組織は、自分が掲げる目的を達成するために存在しているからです。

したがって、組織の存在意義とは、組織は何のためにこの世の中に存在しているのかということです

さらに、「自社の存在意義を考える」とは、自分たちのビジネスは、何のために(目的)、誰に対して、何を、どうやって提供していくことで、この社会に存在していくのかを問うことです。

これは長期的な観点から自社の現在と未来を考えることであるので、戦略的な思考と言えます。

ところで、経営判断に迷った時ほど自社の存在意義に立ち返って考えることが大切だと言われるのはなぜでしょうか?

それは、行くべき方向性を示す羅針盤の原点となるのが自社の存在意義だからです。

つまり、自社の存在意義に今一度立ち返ってみることで、適切なマーケティング戦略を練り直すことができるようになるからです。

 

3.なぜ自社の存在意義を成文化する必要があるのか?

組織のスタート段階ではメンバーの数が少ないため、自社の存在意義はメンバー間で明確であることが多いです。

メンバーの数が少ない組織は、リーダーが掲げる自社の存在意義を一人ひとりのメンバーに伝えやすいからです。

また、スタート段階からの付き合いであるため、創業時からの歴史をメンバー間で共有しており、自社の存在意義を理解する共通の土台があるからです。

したがって、スタート段階などの小規模な組織では、自社の存在意義をあえて明文化するまでもないでしょう。

ところが、時とともに組織が順調に成長していくにつれて、資金力や生産設備と共に人数の規模も次第に大きくなっていきます。

また、組織の活動領域も新たな分野にまで拡がっていきます。

さらに、時代の流れと共に競争環境も大きく変化しているかもしれません。

とすれば、スタート段階では自社の存在意義が適切であったとしても、市場環境や組織の変化によってズレが生じてしまい、見直さなければならなくなります

また、メンバーに異動があったり人数が増えたりして、自社の存在意義に対する認識や理解に深刻な温度差が現れ始めることもあります。

そのため、リーダーは改めて、メンバー間で自社の存在意義の共有をしなければなりません。

そこで、ある程度規模が大きな組織のリーダーは自社の存在意義(ミッション)を真剣に考え直し、文章化した「ミッション・ステートメント」を作成するべきです

 

4.ミッション・ステートメントを作成するための5つの問いとは?

では、どのような点に注意してミッション・ステートメントを作成したら良いのでしょうか?

ピーター・ドラッカーは、その作成にあたり、次のような5つの問いに答える形で取り組むようにとアドバイスしています。

・「自分たちの事業は何か

・「顧客は誰か

・「顧客にとっての価値は何か

・「自分たちの事業はこれからどうなるのか

・「自分たちの事業はどうあるべきか」。

成功した企業は、5つの問いに真剣に取り組んで独自の答えを導き出し、ミッション・ステートメントを作成しています

メンバー間で共有するべき目的や理念が文章化されることで、地理的に離れたメンバー間でも認識が共有されるのみならず、判断に迷った時に立ち返るべき指針となるからです。

さらに、組織がバラバラに動くのではなく、掲げた目的や理念に沿うように一体となり、力を合わせて動けるようになるからです。

最後に、理想的なミッション・ステートメントを作成する上で大事なポイントをお伝えしておきます。

ミッション・ステートメントは、以下の4つの要件を備えていることが望ましいです。

そうでないと、社内外の人々に共有されず、額縁に入ったただのお題目となってしまうからです。

①的を絞っていること

自社の存在意義についてあまりたくさんの言葉を詰め込みすぎると、本当に伝えたいことが不明確になってしまいます

そこで、人々の心にしっかり刻み込まれるための明確なメッセージにするには、絞り込んだ内容を短い文章の形で明確にしましょう。

②大切にしたい理念や価値を明らかにしていること

「もし明日地球が滅びるなら、社内外の人々にこれだけは訴えておきたい」くらいに大切にしている理念や価値だけを明確に伝える形にしましょう。

自社の存在意義はコロコロと毎年変更されるべきものではなく、一定の期間にわたって人々からの共感を呼び、支持され得る内容でなければならないからです。

また、ありきたりの美辞麗句では人々の頭の中を通り過ぎてしまい、共感を得られないからです。

本当に大切にしている理念や価値だからこそ、人々からの共感を呼び、支持されるのです。

なお、理念や価値の文章表現は、その基本精神は維持するべきですが、様々な場面で応用が利くようにある程度抽象的な言い回しで構いません

③競争領域を明確化していること

競争領域(自社の主戦場)はどこなのかを明らかにしましょう。

自社の主戦場を明らかにしなければ、どういう人たちを顧客にして、どんな貢献をしていけばいいのかが分からないからです。

また、顧客側から見ても、自分が対象に含まれるかどうかが分からず、その会社のメッセージを受け止めて今後付き合っていくかどうかを決めかねるからです。

さらに、どの会社がライバルなのかも不明確になり、効率的な競争戦略を描けなくなるからです。

ちなみに、「競争領域」とは産業領域、製品領域、技術領域、市場領域などのことです。
(次回以降の記事で詳しくご説明します。)

④夢を備えていること

苦しい時でも人が頑張れるのは、少し先の未来に夢や希望を見られるからです。

ミッション・ステートメントが夢も希望も見られない内容では、メンバーは苦しい時に頑張ろうとは思わないでしょう。

したがって、メッセージの内容はメンバーに夢と希望を抱かせるようなものにしましょう。

以上、リーダーやマーケターの方は、チーム一丸となって顧客満足を実現し、支持され続ける企業となるために、自社の存在意義について深く考え、そして、それをミッション・ステートメントの形にしていきましょう。

 

最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第22回)」をお届け致します。

リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。

 

<主な参考文献>

この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。

①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。

もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。

実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。

ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)

 

①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)

②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)

③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)

④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)

⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)

⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)

⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)

⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)

⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)

⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』

(有斐閣、2016年)

⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。

手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。

これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。

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