リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第24回)
〜ホワイトスペース戦略とは?(前編)~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
前回の記事(第23回)では、「成長が行き詰まった時の新たな戦略の見つけ方とは?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第23回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
アンゾフの成長ベクトルという思考枠組みを使って、①市場浸透戦略、②市場拡大戦略、③新製品開発戦略、④多角化戦略という4つの戦略パターンについてご説明しました。
成長が行き詰まった時の新たな戦略の見つけ方のポイントとしては、製品と市場との論理的なつながり(フィット感)が大切だというお話でした。
論理的なつながりがあるからこそ、ターゲット層の顧客からの納得感や、支持を得られるからですね。
さて、今回のテーマは「ホワイトスペース戦略とは?(前編)」です。
AppleやAmazonなどの世界的企業が短期間で急成長した原因について、アンゾフの成長ベクトルの考え方からは説明しきれない面があります。
それは、新製品を新市場に導入したというだけではないからです。
ビジネスモデル自体に革新性があったということをホワイトスペース戦略は説明しています。
では、ホワイトスペース戦略とはどのような戦略なのでしょうか?
そこで、今回は「ホワイトスペース戦略」について具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
1.ホワイトスペース戦略とは?
ホワイトスペース戦略の提唱者であるマーク・ジョンソン氏によると、「ホワイトスペース」とは、ビジネスモデルの革新によって生み出される事業領域のことです。
つまり、その企業の既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域であって、新しいビジネスモデルを確立しないと生かせない領域のことをいいます。
よって、「ホワイトスペース戦略」とは、その企業の既存のビジネスモデルの範囲外で成長性がある市場を見つけ出し、それにフィットした新しいビジネスモデルを確立するための戦略のことをいいます。
他方、従来からその企業が取り組んできている事業領域は「コアスペース」といいます。
また、顧客や製品が自社にとって新規であっても既存のビジネスモデルで対応できる事業領域は「隣接スペース」と呼んでいます。
例えば、書籍のネット販売でスタートしたAmazonにとって書籍販売は「コアスペース」であり、ネット販売の利用という同じビジネスモデルによる食品や日用雑貨の販売は「隣接スペース」になります。
さらに、既存の顧客に対して既存の製品を提供する場合であっても、ビジネスモデルだけの革新が実施される事業領域のことを「アナザースペース」と呼びます。
アナザースペースの具体例としては、パナソニック電工の例があります。
パナソニック電工は、「明かり安心サービス」という新しいビジネスモデルを開発して、事業所の照明のマネジメントを総合的に代行するというビジネスに乗り出しました。
確かに、事業所への電球や蛍光灯の販売というビジネスモデル自体は、既存の顧客や既存の製品です。
しかし、このビジネスモデルの革新性のポイントは、照明に関する年間契約など、一定期間の保守やメンテナンス契約に電球や蛍光灯を組み込み、その対価を得るという総合的なマネジメント業務を代行する点にあります。
顧客の「管理がめんどうくさい、コストを削減したい」というニーズにマッチしたため、パナソニック電工の新ビジネスモデルは、新たな顧客を獲得し、業績が拡大しました。
2.ホワイトスペース戦略の具体例-Apple社
今や世界の誰もが知っている飛躍的な成功を遂げた企業の1つにApple社があります。
Apple社は、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、およびロナルド・ウェインによってマイクロコンピューターのAppleⅠを販売するために創業されました。
この後のAppleIIやMacintoshのヒットもすごい業績ですが、ただ、それまでは単なるパソコンメーカーでした。
途中、ウォズニアックがApple社を去ったり、ジョブズが会社を追放されるなど紆余曲折がありました。
しかし、ジョブズがApple社にCEOとして復帰してからは、iMacを成功させ、さらに携帯音楽プレイヤーiPodを発表して大成功させることで、Apple製品の地位を再び引き上げ、単なるパソコンメーカーから脱皮しました。
また、Apple社が発売したスマートフォンiPhoneも大きな成功を収め、Apple社に莫大な利益をもたらしました。
Apple社の成功をアンゾフの成長ベクトルの枠組みで考えますと、新製品で新市場を狙った多角化戦略を採用したように見えます。
しかし、Apple社はiTunes Storeを開設し、当初は音楽配信のみのサービスでしたが、後に、動画配信、映画配信、映画レンタル、アプリケーション提供などを行う総合的なコンテンツ配信サービスを提供するようになりました。
従来は、音楽はレコードやカセットテープ、MDあるいはCDなどで聴き、映画は映画館やレンタルビデオで見て、テレビ番組はテレビで見るというものでした。
つまり、音楽は音楽会社のビジネスモデル、映画は映画会社のビジネスモデル、テレビ番組はテレビ会社のビジネスモデルというように別々のビジネスモデルで成り立っていました。
ところが、Apple社はiTunes Storeによりハードウェア、ソフトウェア、デジタル音楽をセットにして提供し、音楽会社や映画会社、テレビ会社の顧客を一気に取り込むことに成功したのです。
好みの楽曲をいつでもどこでも手軽に聴ける環境で、しかも、比較的安価に入手でき、収納スペースの配慮が要らないデジタル配信でしたので、ユーザーは幾分高価であっても、携帯プレイヤーを喜んで購入したからです。
アンゾフの成長モデルにおける多角化戦略では、「こんな製品があったらいいな」という顧客の潜在的なニーズを掘り起こして、それにマッチした新製品を新市場に導入することで成長を図りました。
これは従来のビジネスモデルの延長線上で行われるものです。
しかし、Apple社の場合は、ビジネスモデルそのものを変えたことに大きな意味があったのです。
つまり、単に新製品を開発して新市場に導入したというのではなく、ビジネスモデルそのものを革新して新たな顧客価値を創造したことが大成功の要因といえます。
最後に、ジョブズのマーケティングに関する名言をご紹介します。
「顧客に欲しいものを聞いて、それを与えるだけではいけない。」
人はそれを目で見て自分で体験するまで、自分が本当は何が欲しいのかを分からない生き物です。
だからこそ、顧客のニーズを先取りして、新しいビジネスモデルを創造し、新しい顧客価値を提案するというホワイトスペース戦略が生きるのです。
3.なぜビジネスモデル自体の革新が必要なのか?
初期の携帯電話は、1リットルの牛乳パックくらいの大きさがあり、鞄にやっと入るようなものでした。
見た目は、ちょっとした通信兵のようでした。
しかも、基地局が非常に少なかったため、通話範囲も限られていました。
しかし、「携帯できるため、固定電話に縛られず、移動先から電話をかけることができる」という機能的な価値を提供するだけで、独占状態を可能にしました(当時はまだ小さくてニッチな市場でしたが)。
電話を携帯できるという状態が当たり前の基準になりますと、次は、通話範囲の広さや、音声の品質などの信頼性へと競争の基準が上がっていきました。
さらには、小型でがさばらずに軽いことや使いやすさなどの利便性へと競争の基準がさらに上がりました。
競争の基準が「利便性」という基準にまで高められますと、いわゆる「技術力では勝っているのにもかかわらず、事業で負ける」(経営学者・妹尾堅一郎氏)という事態が頻発することになります。
使い勝手や生活習慣に馴染むかという利便性基準の競争になりますと、もはや技術力の優劣ではなく、顧客の価値観やライフスタイルなどへの鋭い観察眼や洞察力がマーケティングの勝敗を分けるからです。
そのため、技術で勝っているにもかかわらず事業で負けるという状態から脱却するには、ビジネスモデルそのものを変革するしかないということで、新たなビジネスモデルの構築に注目が集まることになりました。
つまり、ホワイトスペースで新たな成功をつかむためには、自社のビジネスの最も中核をなす部分を革新し、自社がこれまで実践してきたビジネスの理論にイノベーションを起こす必要があることが分かってきたのです。
したがって、ホワイトスペース戦略では、これまでとは異なる新しいスキル、新しい強み、新しいビジネスの手法が求められ、そのプロセスを「ビジネスモデル・イノベーション」と呼んでいます。
これ以上書きますと説明が長くなりますので、前編はこの辺で。
次回の記事(第25回)でホワイトスペース戦略の続き(後編)をご説明致します。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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