リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第14回)〜顧客価値とは?~

マーケティング

リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第14回)
〜顧客価値とは?~

 

こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。

誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。

このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。

前回の記事(第13回)では、「ポジショニングとは?(後編)」をテーマに、ポジショニングの設計で欠かせない本質的な点や、新製品開発と顧客満足とのいたちごっこなどについて具体的にご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第13回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)

今回のテーマは「顧客価値とは?」です。

効果的なマーケティング戦略を考えていくための中心的な概念として「顧客価値」があります。

全てのマーケティング活動は顧客価値の実現という目的に向けて行われるものだからです。

実際、ビジネスの世界では顧客価値という言葉で溢れています。

それでは、「顧客価値」とは具体的にどのような概念なのでしょうか?

そこで、今回は、「顧客価値」の概念や、顧客価値実現に向けて一般的なマーケティング戦略理論をどのように自分のビジネスに活かせばよいのかなどについて具体的にご説明して参ります。

それでは行ってみましょう!

 

1.顧客価値提供のためのシークエンス(連鎖)とは何か?

現在の市場では、顧客の価値観やニーズが多様化するとともに、製品のコモディティ化(=製品の品質・性能・機能などの同質化)が進み、顧客にとっての選択肢が増えています。

そのため、自分の製品がいくら顧客ニーズにマッチしていても、類似製品との明確な違い(独自性)がなければ、顧客が自分の製品を選ぶ理由がなく、強い支持は得られません。

したがって、顧客ニーズにマッチした製品を生産・提供しても、製品自体の独自性がなければ顧客から選んでもらえないのです。

もちろん、類似製品との差別化は、製品そのものの品質・性能・機能だけで打ち出すものではありません。

製品(Product)はもちろん、価格(Price)、流通(Place)、広告・販売促進(Promotion)などの違いによっても生み出すことができます。

つまり、マーケティング・ミックス4Pのそれぞれについて、知恵と工夫によりライバル製品との違い(独自性)を生み出し、顧客に訴えかけていけば良いのです。

細かい違いまで含めて考えますと、マーケティング・ミックス4Pのそれぞれについて差別化できれば、その組み合わせはほぼ無限のパターンがあるといえます。

したがって、現代のマーケティングでは、マーケティング・ミックス4Pによる組み合わせを「顧客に価値を提供していくためのシークエンス(連鎖)」として捉えるべきでしょう。

そして、効果的なマーケティング・ミックス4Pの組み合わせを考える意味は、顧客価値を生み出すだけではなく、生み出した価値をいかに顧客のもとへ届け、どのように顧客へ説明し、理解してもらうかにあると理解するべきでしょう。

以上より、マーケティングとは、「顧客価値を創造し、伝達し、説得するプロセス」として理解することができます(恩蔵、2019年)。

マーケティングミックス4Pの中で、顧客価値の創造を担うのは、主として製品(Product)の役割です。

次に、顧客価値の伝達を担うのは、主として流通(Place)の役割になります。

最後に、顧客価値の説得を担うのは、主として価格(Price)プロモーション(Promotion)の役割です。

リーダーやマーケター(=マーケティング担当者)の方は、マーケティング・ミックス4Pのそれぞれの役割を理解しながら、適切な組み合わせを考えて自分の製品を差別化していきましょう

 

2.顧客価値とは具体的にはどういうことか?

顧客価値」とは、簡単に言えば、顧客が購入した製品やサービスから受け取るベネフィット(=便益)のことです(広義)。

ここで、「ベネフィット(=便益)」とは、顧客がその製品に対して便利で利益があると感じている状態のことです。

ただ、この定義ですと、抽象的すぎて分かりにくいと思いますので、顧客価値についてさらに具体的に見ていきましょう。

一般的には、顧客価値は、その製品を購入することで、顧客が「得るもの全て」と顧客が「失うもの全て」の差によって説明されることが多いです。

ここで「得るもの」とは、その製品の品質・性能・機能・精神的満足感などに代表されるベネフィット(=便益)のことです(狭義のベネフィット)。

他方、「失うもの」とは、価格に代表されるコスト(=支出費用)のことです。

商売における「利益」が、<収益−費用=利益>という単純な式で要約されるように、「顧客価値」もまた、<ベネフィット−コスト=顧客価値>という単純な式で要約することができます。

したがって、この顧客価値の式をもとに考えますと、より大きな顧客価値を創造するための戦略としては、以下の5つの組み合わせが導き出されます。

①ベネフィットを引き上げ、かつ、コストも引き下げる

②ベネフィットを引き上げるが、コストは据え置く

③コストを引き上げるが、それ以上にベネフィットを引き上げる

④ベネフィットを据え置くが、コストは引き下げる

⑤ベネフィットを引き下げるが、それ以上にコストを引き下げる

もちろん、全く同じ製品を提供されても、それぞれの顧客の捉え方や価値観によって、ベネフィットやコストへの受け止め方は大きく異なります。

したがって、顧客価値というのは、ベネフィットもコストも顧客がどう受け止めて、どう感じるかという主観的な判断によって決まることに注意が必要です。

つまり、顧客価値は、売り手側が決められるものではなく、最終的には顧客の側が決めるものなのだという厳しい現実を理解しておきましょう。

例えば、飲食店で提供される料理について、最終的に顧客がおいしいと言えばおいしい料理といえます。

逆に、まずい料理だと文句を言われれば、どんなに手間暇をかけて料理を作ったとしても、まずい料理を提供してしまったということになるのです。

この点につき、イタリアン・ファミリーレストランの大手であるサイゼリヤの正垣泰彦社長は、次のような名言を述べていらっしゃいます。

「おいしいから売れるのではない!
売れているのがおいしい料理だ!
自分の店の料理はうまいと思ってはいけない。
それこそが悲劇の始まりだと私は思っている。
なぜなら、自分の店の料理はうまいと思ってしまったら、売れないのはお客が悪い、景気が悪いと考えるしかなくなってしまうからだ。」

また、著名なマーケティング研究者であるフィリップ・コトラー教授は、人による受け止め方の違いによって新たな価値の創造になるかどうかも変わってくることを主張しています。

その著書の中で紹介されているエピソードは以下のようなものです。
(『コトラーのマーケティング・コンセプト』(東洋経済出版社、2003年)より)

ある時、子供が3人の煉瓦職人に会い、「何をしているの」と尋ねた。
すると、1人目の煉瓦職人は「セメントを混ぜているのだ」と答え、2人目は「この壁を作っているのだ」と答え、そして3人目は「大聖堂を立てているのだ」と答えた。
捉え方の違いによって、同じ作業が「単なる労働」にも「夢の実現への一歩」にもなるのである。
(以上、恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)より引用)

したがって、リーダーやマーケター(=マーケティング担当者)は、顧客価値の式から導かれる5つの組み合わせのうちどれを選ぶかについて、顧客側の視点を具体的に想像しながら慎重に検討しましょう

実際に、より大きな顧客価値を創造するための戦略として5つの組み合わせのうちどれを選択するかは、自分の経営資源、顧客ニーズ、ライバルの強さを比較検討することによって考えていくと良いでしょう。

顧客価値を創造するための戦略として、Apple社を例として見ていきましょう。

Apple社は2007年に初代iPhoneを導入し、数年ごとにモデルをアップデートして販売しています。

iPhone 3G (二代目)を発売した時、Apple社はiPhoneのファンを熱狂させる戦略を打ち出しました。

モバイル通信速度を約2倍にして顧客ベネフィットを引き上げました。

驚くのはここからです。

ベネフィットの向上に合わせて価格も引き上げるのが通常ですが、逆に、初代モデルの399ドルから199ドルに半値近くまで顧客コストを引き下げたのです。

その時のApple社が打ち出したキャッチコピーもセンセーショナルで秀逸でした。
「Twice as Fast, Half the Price(速さは2倍、値段は半分)」と人々に訴えたのです。

 

3.一般的なマーケティング戦略理論を自分のビジネスにどうやって活かすか?

最後にマーケティング初心者の方に注意を促しておきたいことは、マーケティングの教科書に書いてある内容はあくまで一般論だということです。

マーケティングの教科書で書かれていることは、過去の成功したビジネスの事例の中から成功の要因となる法則を見つけ出し、それを一般論として解説したものだからです。

法則である以上、その内容は抽象的なものになります。

ただ、実際には業種や業態、ターゲットセグメント(標的市場)をどれに選ぶか、国柄、地域性、社会的文化的背景等の違いによって、それぞれの売り手が考えるべきマーケティング戦略は異なってきます。

したがって、一般的なマーケティング戦略理論を自分のビジネスに活かすためには、教科書に書かれている抽象的な考え方を自分のビジネスに引き寄せて具体的に捉え直す応用力が必要です

マーケティング戦略理論とはいわば、考え方の枠組みを教えてくれるものだと理解すると良いでしょう。

リーダーやマーケターの方は、マーケティング戦略理論で学んだ考え方を自分のビジネスに合うように具体化し、自分の顧客のニーズに具体的にマッチしたマーケティング戦略を考えるようにしていきましょう

 

最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第15回)」をお届け致します。

リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。

 

<主な参考文献>

この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。

①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。

もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。

実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。

ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)

 

①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)

②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)

③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)

④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)

⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)

⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)

⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)

⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)

⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)

⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』

(有斐閣、2016年)

⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。

手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。

これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました