リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第18回)〜顧客生涯価値と顧客シェアとは?~

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リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第18回)
〜顧客生涯価値と顧客シェアとは?~

 

こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。

誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。

このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。

前回の記事(第17回)では、「顧客育成とは?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第17回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)

顧客育成の意味やその必要性と、リーダーが重視するべきポイントなどについてのお話でした。

今回のテーマは「顧客生涯価値と顧客シェアとは?」です。

競争が激化している成熟市場では、限りある経営資源を効率良くターゲット顧客に集中投入して、顧客を自社のファンに育成する必要性が高まってきています。

そのためには、セグメンテーションによる市場細分化や市場シェアなどの従来の考え方だけでは、顧客の真のニーズを明らかにするには足りません。

セグメント(=細分化されたターゲット市場)の中の顧客ニーズを全体的に捉えるのではなく、個々の顧客ニーズのレベルにまでもっと細かく分析していく必要があります。

そのために役に立つ考え方が「顧客生涯価値」と「顧客シェア」です。

そこで今回は、「顧客生涯価値と顧客シェア」について具体的にご説明して参ります。

それでは行ってみましょう!

 

1.伝統的なマーケティングにおける顧客ニーズの把握の限界とは?

伝統的なマーケティングでは、顧客ニーズに応えるための適切なマーケティング・ミックス4Pを作り上げるため、セグメンテーションによって異なる顧客ニーズごとに市場を細分化してきました。

そして、細分化された市場(=セグメント)に対して、自社製品の強みと顧客ニーズがマッチする顧客層がいるセグメントを標的に設定するターゲティングをします。

さらに、顧客の頭の中で類似製品との明確な差別化がされるようにポジショニング(=セグメント内での自社製品イメージの位置づけ)を行います。

伝統的なマーケティングでは、新しい顧客の確保によってビジネスの成長を図るため、自分の製品の強みを生かせるような顧客層を取り込む発想を重視しています。

もちろん、自分の製品に合った顧客ニーズを持つターゲット層に経営資源を集中するために、ニッチ志向、つまり、焦点の絞り込みの発想も忘れてはならない大切なものです。

しかし、新製品開発によって新しい顧客層の取り込みの方が重視されたため、絞り込みの圧力が取り込む圧力を上回ることはありませんでした。

ところが、顧客の価値観やニーズもより一層多様化し、さらに、市場が成熟化して競争が激しくなってきますと、より個別的な顧客層の分析が必要になってきます。

それぞれの売り手は、経営資源をより効率的にターゲット層の顧客に集中しなければ、生き残れなくなってきたからです。

そこで、ターゲット層の顧客を個別的に分析してみますと、自社製品の売上げに対する貢献度(=収益性)が顧客ごとに異なっているということが分かってきました。

つまり、顧客管理システムの発達により、顧客の収益性はそれぞれの顧客ごとに異なることが次第に認識されるようになってきたのです。

例えば、アメリカン・エキスプレスのジェームズ・パッテン氏は、顧客の中でも、最高の顧客と他の顧客とでは売上げに対する貢献度(=収益性)が大きく異なることを指摘しています。

具体的には、最高の顧客は他の顧客に比べて、小売業で16倍、飲食業で13倍、航空業で12倍、ホテル業で5倍の支出をしているとのことです。

また、パレートの法則で有名な80対20の法則でも、上位20%の顧客によって企業全体の利益の約80%がもたらされると言われています。

とすれば、セグメンテーションによって細分化された市場の中の顧客は、ニーズの共通性という意味では共通点があるものの、一括りにして大雑把に捉えるべきではありません

マーケティングの目的は、適切なマーケティング・ミックス4Pを作り上げて顧客ニーズに応えることです。

また、限りある経営資源を有効に活用して、効果的に売上げや利益を確保しなければなりません。

そのため、ターゲットとする顧客をより一層売上げ貢献度の高い顧客に絞り込み、そこに経営資源を集中投入するべきです。

したがって、リーダーやマーケター(=マーケティング担当者)は、まずはターゲットセグメント内の顧客をより一層細かく分析して、個々の顧客における売上げ貢献度(=収益性)の違いを把握していきましょう

 

2.個々の顧客の収益性の違いに応じたマーケティング活動とは?

既存顧客の売上げ貢献度の違いを分析した結果、収益性の高い顧客、普通の顧客、収益性の低い顧客に分かれたとしましょう。

収益性の高い顧客は、売上げ貢献度が高いだけでなく、今後も継続して自社製品を購入してくれる可能性が高いです。

そのため、売り手は収益性の高い顧客を絶対に手放してはいけません。

したがって、収益性の高い顧客には、経済的な利益を提供する特典や、特別限定販売会への招待といった特別待遇を提供して、より一層ファンになってもらうような施策をするべきです。

なお、収益性の高い顧客に対する特別扱いは不平等なものではありません。

自社の売上げ・利益への高い貢献度に応じた実質的な平等を図るためのものですので、妥当な施策といえます。

次に、普通の顧客に対しては、近い将来に収益性の高い顧客に進化してもらうために、購入金額が上がれば上がるほど、あるいは、継続率が高まれば高まるほどお得になるような特典や特別待遇の仕組みを作って提供していきましょう

最後に、収益性の低い顧客に対しては、まずはアンケート調査などにより顧客の真のニーズの深堀りをしてみることと、自分の製品が本当に顧客満足度を最大化できているか見直しをすると良いでしょう。

そして、マーケティング・ミックス4Pの改善・改良を重ねるとともに、ダイレクトメールやSNSなどにより顧客との接触機会を高めることで、購入率や継続率のアップを目指していきましょう

それでも収益性の低いままの顧客に対しては、場合によってはそれ以上の経営資源の投入を諦めることも検討しましょう。

ビジネスは利益を確保できなければ存続していけませんので、経営資源の投入量よりも見返りが少ない顧客に対しては、それ以上時間や手間などの費用をかけるわけにはいかないからです。

また、顧客満足の最大化とは逆行することになりますが、最低限赤字にならないようにするために、一部のサービスを値上げしたり、逆に、サービス・コストを削減したりするなどの対応策も検討するべきです。

実際の例として、アメリカの大手銀行であるシティバンクでは、取引残額が一定額を下回る小口預金者(=収益性の低い顧客)に口座維持手数料を課すことで、赤字になることを防止しています。

 

3.顧客生涯価値とは?

顧客の収益性と結びついた考え方として、「顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)」という言葉がビジネス界で盛んに言われるようになってきています。

顧客生涯価値」とは、ある特定の顧客がその一生涯のうちで、自社の製品を購入してから継続購入が終わるまでの間に自社にもたらしてくれる利益の総額を表す指標です。

ある特定の顧客が一生涯のうちに自社にもたらしてくれる利益の総額は、
<顧客単価×粗利率×購買頻度×取引期間−顧客の獲得・維持コスト>
という計算式で求めることができます。

そして、特定顧客の生涯利益の総額を一定の割引率(金利)で割ったものが現在価値になります。

これが「顧客生涯価値」です。

顧客生涯価値の具体例を見てみましょう。

メキシコ料理のファーストフードチェーン店であるタコベルの経営幹部によれば、自社の常連客には1万1000ドルの価値があるとのことです。

また、全米顧客満足度No.1カーディーラーとして有名なカール・スーエル氏によれば、一般的な自動車所有者は1人当たり、その一生涯のうちに自動車本体の購入とサービスに対して30万ドルの支出をするそうです。

したがって、リーダーやマーケターは、売上げや利益への貢献度が高い顧客を育成するために、顧客生涯価値の考え方を考慮に入れると良いでしょう。

 

4.顧客シェアとは?

競争が激化する成熟市場の中で顧客生涯価値の考え方が広まるとともに、「顧客シェア」の考え方もまた提唱されてきています。

従来のマーケティングにおける「市場シェア」の考え方は、市場全体に対する自社製品が占める割合を明らかにする指標です。

市場シェアの考え方は市場全体を統計的に見た指標であるため、これで分かるのはあくまで全体的な傾向にとどまります。

つまり、個々の顧客間の違いは無視されているのが弱点です。

これに対して、「顧客シェア」の考え方は、より「個」に注目して細かく分析し、個々の顧客の価値に占める自社の取り分を明らかにする指標です。

顧客シェアの考え方によって個々の顧客間の違いが明らかになり、限りある経営資源をより適切なマーケティング活動に使うことができるようになります。

顧客シェアの考え方を具体例で見てみましょう。

例えば、ターゲットセグメントの中に顧客が5人いたとします。

それぞれの顧客が10単位ずつ購入枠を持っているとしますと、市場全体の購入枠の量は50単位になります。

この時、自社がその顧客の購買枠のうち10単位分の売上げを確保していたとしますと、「市場シェア」としては20%になります。

この段階では、あくまで全体的に見た売上げ割合にしか過ぎず、個々の顧客別の割合がどうだったかまでは分かりません。

同じ20%の市場シェアといっても、個々の顧客別の売上げ割合を細かく分析してみれば、内容が全く異なることもあります

極端な例かもしれませんが、各顧客から2単位ずつ確保し、合計が10単位になっている場合もあれば、特定の1人の顧客から10単位すべてを確保して、他の4人の顧客が0単位でも合計が10単位になっている場合もあるのです。

後者の場合には、10単位確保している1人の顧客シェアは100%になりますが、残り4人の顧客シェアは全員0%になってしまうのです。

そうなりますと、効果的な経営資源の投入のためには、マーケティング活動の対象とするべき顧客も見直さなければなりません

つまり、「市場シェア」として捉えるだけでは、どの顧客に経営資源を投入して効率的なマーケティング活動をすれば良いのかが分からないという弱点があるのです。

そこで、リーダーやマーケターの方は、個々の顧客別の売上げ割合を明らかにするために、「顧客シェア」の考え方を導入してより細かく分析するようにしましょう

そして、「顧客シェア」の考え方をもとに、経営資源を集中投入するべき顧客を設定し直し、効果的なマーケティング・ミックス4Pを作り上げ、そのターゲット顧客の収益性を高めていきましょう

 

最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第19回)」をお届け致します。

リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。

 

<主な参考文献>

この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。

①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。

もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。

実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。

ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)

 

①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)

②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)

③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)

④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)

⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)

⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)

⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)

⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)

⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)

⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』

(有斐閣、2016年)

⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。

手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。

これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。

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