リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第3回)
〜なぜマーケティングを学ぶと良いのか?~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、
リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、
コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
さて、今回は「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第3回)」として、
「なぜマーケティングを学ぶと良いのか?」というテーマで説明していきたいと思います。
それでは行ってみましょう!
目次
1.マーケティングはどのくらい応用がきくのか?
結論から言ってしまいますと、
マーケティングはかなり広い範囲で応用可能な考え方です。
マーケティングとは、ターゲット層とする相手から望ましい反応を獲得するための仕組み作りのことだからです。
商売における顧客に対して製品やサービスを購入してもらうだけが全てではないのです。
確かに、マーケティングと聞きますと、
どうしても、スーパーやデパートなどの小売店や、パソコンや携帯電話などの販売会社、法人対法人への営業をビジネスとしている会社、などといった営利組織が行うイメージが強いですね。
どのような新製品を開発し、
どのような広告コミュニケーションを展開したら良いのか。
また、価格をいくらに設定したら良いのか、
どのような販売経路で展開したら良いのか、などなど。
これらの判断は、全て営利組織において日常的に行われている活動ですから、マーケティングが営利組織特有のものとイメージしがちなのはもっともかもしれません。
しかし、世の中を見渡してみますと、マーケティングは何も営利組織特有のものではありません。
実は、マーケティングの考え方が幅広く応用できるものであるという有効性が理解されるようになり、次第に社会へ広まっていくようになりました。
そのため、営利組織以外の団体や個人事業主といった方たちの活動においても、マーケティングの考え方が活用されるようになってきています。
つまり、マーケティングは、商売以外の様々な場面に応用可能で、どんどん拡張し続けている考え方なのです。
2.具体例①;非営利組織である大学におけるマーケティングとは?
例えば、非営利組織の1つである大学の学生募集の場面においても、マーケティングが活用されています。
高度経済成長期の日本は、子供の数が多く、全大学の募集定員よりも受験者数の方が多い状態でした。
そのため、マーケティング活動をそれほどしなくても、各大学は学生数を確保できていました。
各大学による受験生獲得競争はあるにはあったものの、それほど厳しい競争条件ではなかったのです。
しかし、現在の日本は少子高齢化社会を迎えた結果、大学への受験者数も大幅に減りました(ピーク時の5〜6割程度)。
そのため、受験生獲得競争が厳しくなり、各大学は生き残りをかけて学生募集をしなければならなくなりました。
つまり、受験生に自分の大学を選んでもらわなければならない状況になったのです。
そこで、各大学は、受験生集めのためのマーケティング活動を盛んに行っています。
例えば、大学教授が受験生集めのために、大学内で高校生を相手に模擬授業を行ったり、あるいは、高校へ出張模擬授業に行ったりしています。
また、大学の雰囲気を肌で感じてもらい、好印象を抱いてもらうため、学内の設備を改良・改修し、キャンパス見学を招致したりしています。
さらに、PR広報物としての大学案内も、デザイナーに発注し見栄えを美しくするなどの力を入れています。
その他にも、授業内容改善のために、大学生に授業評価をしてもらうアンケート制度を取り入れています。
また、家計の学費負担の重さを考慮して、授業料や入学検定料を見直したりするなどの工夫もしています。
さらに、学生や社会のニーズに合致した新学部・学科を開設したり、海外留学の機会を増やしたり、海外企業への就職斡旋窓口を設置しています。
社会人向けの教育プログラムを開発するなどの工夫に取り組む大学も現れています。
以上のように、非営利組織である大学においても、マーケティング活動は盛んになってきています。
3.具体例②;ニューヨーク公共図書館のマーケティングとは?
次に、非営利組織でありながら寄付を集めるためのマーケティング活動を展開している「ニューヨーク公共図書館」を取り上げます。
私たち日本人からしますと、とてもユニークな取り組みをしている公共図書館だと思います。
そこで以下、そのマーケティング活動をご紹介します。
(菅谷明子『未来をつくる図書館-ニューヨークからの報告-』(岩波書店、2003年)より引用)
「(ニューヨーク公共図書館は)運営面や財政面で独立しているため、思想的にも独自のスタンスを取りやすく、民主主義や言論の自由に対する認識も高い。
(中略)しかし、それだけに資金調達は重要な仕事になる。
趣向を凝らしたイベントや優雅な晩餐会は、企業や篤志家を相手に寄付金を募る格好の場だ。」(p.7~8)
運営や財政面で国の機関から干渉されないようにするためには、資金的な独立性が必要です。
そのため、事業開発部やマーケティング部、広報部などを設けて、図書館運営にかかる資金を自前で調達しているわけですね。
「ニューヨーク公共図書館は設立当初から、市民精神溢れる篤志家らが寄付などを通じて図書館の活動に深く関わりながら、行政とのユニークな協力関係を発展させてきた。
こうした伝統に基づくパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)こそがニューヨーク公共図書館の神髄であり、この手法がより豊かなサービスを提供することに大きく貢献してきている。
(中略)歴史的に図書館の活動には民間が大きな役割を担ってきているが、現在の財源も、地域分館ではニューヨーク市による資金が大半であるものの、研究図書館では年間予算の半分以上が民間資金で成り立っている。
それだけに、図書館では戦略的に資金調達を行う専門部署を設けている。
(中略)ニューヨーク公共図書館では、あくまでも公共的な役割を果たしながら、民間からの資金調達を積極的に行うというビジネス・モデルを採っているのである。」(p.160~161)
資金調達を担う専門部署のスタッフは、
投資銀行などの金融機関出身者や、公共政策のプロなどが配置されていると言われています。
日本の一般的な図書館司書などのようなスタッフ像とは大きくかけ離れた人たちも働いていますね。
「日本ではニューヨーク公共図書館のようなNPOが、資金集めに奔走したり、マーケティングの発想を取り入れることに違和感を感じる向きもあるかもしれない。
しかしアメリカのNPOは、自らの存在意義を広く社会にアピールすることで支持を獲得し、個人や企業、行政からの資金を得るために積極的な行動に出る。
ある程度の規模を持つNPOであれば、事業開発部や、マーケティングや広報の部署があるところは決して珍しくない。
企業と見分けがつかないような巨大NPOもあるが、その違いを端的に言えば、企業が利潤追求を目的とするのに対して、NPOはあくまでも社会的な使命の達成を目標に掲げていることである。」(p.161~162)
非営利組織であるニューヨーク公共図書館のようなNPOは、その社会的な使命の達成を目標に掲げています。
そして、それに必要な資金集めのために、事業開発部やマーケティング部、そして広報部などの専門部署を設けています。
つまり、非営利組織においても、マーケティングの考え方をどんどん取り入れて運営されていることが分かります。
教会、美術館、慈善団体、行政機関などの非営利組織なども同様です。
その社会的使命を達成するために、マーケティング活動を展開して資金を集めたり、メンバーや講演者を募ったり、イメージ向上を図ったりしています。
4.具体例③;個人におけるマーケティングとは?
営利組織や非営利組織以外の「個人」が「個人」を対象に行う活動にも、マーケティングは役に立つのでしょうか ?
結論から言いますと、「個人」が「個人」を対象に行う活動にもマーケティングは役に立ちます。
つまり、特定の個人が特定の個人に対して態度変容や何らかの行動を促すための「人」のマーケティングもあるのです。
前述のように、マーケティングとは、ターゲット層とする相手から望ましい反応を獲得するための仕組み作りだからです。
例えば、政治家であれば、自らの政治信条を有権者に訴えて、その結果、票を獲得しなければなりません。
芸能人であれば、自分の魅力をアピールして、ファン層を拡大していく必要があります。
医師や公認会計士、弁護士といった専門職にある人も、専門知識や技術への信頼感や安心感を高めてクライアントから支持されねばなりません。
さらに、個人の枠を超えてみても、観光地や商店街などの「場所」は、観光物や商品等の魅力をアピールして訪問客を引き寄せなければなりません。
禁煙キャンペーンやプレミアムフライデーなどの「アイディア」も、その社会的意義を訴えて、人々からの理解を獲得する必要があります。
つまり、個人でも、ターゲットとする対象者に対して、何らかの提案をして望ましい反応を獲得したい場合には、マーケティングを活かせるのです。
以上のように、マーケティングは、
その有効性が一般に認識されるようになったため、
非常に広い範囲で応用されている考え方なのです。
5.まとめ;リーダーがマーケティングを学ぶ意味とは?
最後に、リーダーがマーケティングを学ぶ意味とは何でしょうか?
リーダーの役割の1つに、メンバーたちに行くべき方向性を示すことが挙げられます。
行くべき方向性は、当てずっぽうでも、行き当たりばったりでもいけません。
きちんとした方向性を示さなければ、リーダー自身はもちろんのこと、メンバーたちも混乱してしまいます。
そこで、行くべき方向性をきちんと示すために、戦略的思考が必要になるのです。
そして、戦略的思考を身近な事例で学ぶのに適しているのがマーケティングの考え方になります。
マーケティングの本質は、突き詰めて言えば、人と人との関係を良好にするための考え方にあります。
人と人との関係を私たちが日常的にイメージしやすいビジネス活動の場で学ぶことが、戦略的思考を身に付けるために有益なのです。
誰もがスーパーやデパートなどの小売店で買い物をした経験があると思います。
テレビやラジオ、新聞、チラシ、インターネットなどで広告を見たこともあると思います。
また、営業マンや販売員からセールスや接客を受けた経験もあると思います。
家計の節約のためにできるだけ価格が安くて良い品を選ぼうとした経験も、日常的にあると思います。
こういった商品やサービスの購買経験を通して、各企業が展開しているマーケティング戦略のイメージを持ちやすいのです。
したがって、個人の方であっても、戦略的思考を身につけるためにマーケティングを学ぶ意味は大いにあります。
特に、リーダーの立場にある方は、マーケティングを学んでおかれた方がより良いリーダーシップを発揮できます。
以上、最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第4回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑬金谷治訳注『岩波文庫 新訂 孫子』(岩波書店、2001年)
⑭菅谷明子著『岩波新書 未来をつくる図書館-ニューヨークからの報告-』
(岩波書店、2003年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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