リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第12回)
〜ポジショニングとは?(中編)~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
さて、前回の記事(第11回)では、「ポジショニングとは?(前編)」をご説明しました。
売り手は、多くの類似製品の中から自分が提供する製品を顧客から選んでもらわなければなりません。
そこで、顧客の頭の中に他の類似製品とは異なるイメージを持ってもらい、自分の製品を選んでもらうため、売り手はポジショニング(=ターゲット市場内における自分の製品の立ち位置の明確化)を検討するというお話でしたね。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第11回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
もっとも、「ポジショニングの必要性は分かったけれど、具体的にポジショニングをしていくにあたっての大切なこと、やってはいけないことはどんなことがあるの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
そこで、今回は「ポジショニングとは?(中編)」として、ポジショニングにおけるUSPの重要性や3つのミスについて具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.ポジショニングにおけるUSPの重要性とは?
そもそも、ポジショニングの目的は、顧客の頭の中における自分が売る製品イメージの明確化にあります。
製品イメージの明確化を図ることで、類似品で溢れるターゲット市場の中であっても顧客から選ばれる製品になるからです。
また、自分の製品のアピールポイント(独自の売り)をあれもこれもと複数同時に顧客に訴えかけているのでは、顧客の頭の中に確固とした製品イメージができません。
したがって、ポジショニングの設計では、顧客の頭の中に訴えかける製品イメージの中核を1つのベネフィット(=顧客がその製品から感じる便益)に絞り込むことが重要です。
伝説の広告マンと呼ばれているロッサー・リーブスは、独自の売り込みポイントを明確化して固く守り、それを繰り返し顧客に訴えかけていくべきだと主張しています。
この独自の売り込みポイントのことをUSP(unique selling proposition)と言います。
つまり、マーケター(マーケティング担当者)は、自分の製品のUSPを掘り起こし、それを顧客の頭の中にイメージとして明確化されるまで繰り返し訴えかけていくべきなのです。
USPを繰り返し訴えかけることによって初めて、類似製品との激しい競争が行われているターゲットセグメントの中で、顧客に自分の製品の存在が認識・理解され、選ばれるようになるからです。
さらに言えば、ポジショニングでは、売り手の製品やサービスが持つ品質、性能、機能などによって顧客にもたらされるベネフィットの点で、その製品やサービスのイメージがターゲットセグメントの中でナンバーワンであることが理想です。
例えば、理容業界に革命を起こしたQBハウスについて見てみましょう。
QBハウスのUSPを端的に表現するキャッチコピーは、「ヘアカット1000円 所要時間10分」です。
従来の理容室の場合、成人男性ですと、ヘアカットを中心とするサービス全体での代金は約5000円、所要時間は約1時間かかっていました。
それをQBハウスは、髭剃りや洗髪、マッサージなどの周辺サービスをあえて取り除き、ヘアカットのみに集中したサービスを開発することで、安くてお手軽なイメージを明確化することに成功しました。
このQBハウスのUSPが、散髪にも安くてお手軽さを求める顧客層の多くに受け入れられ、業績が急拡大していったのです。
このように、QBハウスのポジショニング戦略は、まさにターゲットセグメントの中でUSPを遺憾なく発揮し、そのサービス内容がナンバーワンであるイメージを確立することができています。
以上、ポジショニングの設計作業において、USPを確立する重要性をご理解いただけたかと思います。
2.ポジショニングの設計における3つのミスとは?
前述したように、ポジショニングの目的は、顧客の頭の中における自分が売る製品イメージの明確化にあります。
とすれば、ライバル製品と比べてイメージ的に見劣りしたり、顧客に誤解されたり、あるいは、統一感のないメッセージを発信することで混乱させたりするようなポジショニングは避けるべきです。
そこで、ポジショニング戦略を設計するにあたり、売り手は3つのミスを犯さないように注意深く検討しなければなりません。
その3つのミスとは、「アンダー・ポジショニング」「オーバー・ポジショニング」「混乱したポジショニング」です。
以下、具体的に見ていきましょう。
2-1.アンダー・ポジショニングとは?
第1のミスは、アンダー・ポジショニングをしてしまうことです。
「アンダー・ポジショニング」とは、
顧客側から見たときに、ライバルの類似製品たちと比較してこれといった特徴もなく、イメージが埋もれてしまっているミスです。
これには、ライバルの類似製品たちと比べて見劣りするイメージになってしまっているミスも含まれます。
アンダーポジショニングになってしまいますと、顧客がわざわざ売り手の製品を選んで購入する理由がありません。
これといった特徴もなく、イメージが埋もれてしまっているため、顧客の頭の中にそもそも思い出されないからです。
また、顧客の頭の中になんとなく思い出されるものであっても、イメージ的により優れている他の類似製品の方を真っ先に思い浮かべますので、顧客はそちらの方を選ぶ可能性が高いからです。
実際、顧客にアンケートをとってみますと、企業名や製品名はなんとなく知られていても、それ以上のイメージが浮かびにくい製品は少なくありません。
アンダーポジショニングを引き起こしてしまう原因は、広告コミュニケーション量の不足や、ポジショニングの切り口が不適切なことにあります。
広告コミュニケーションの量が不足していることが原因である場合には、予算を広告コミュニケーションに重点配分してテコ入れすることで、アンダー・ポジショニングを解消できます。
しかし、ポジショニングの切り口が不適切であることが原因の場合には、事態は深刻です。
ポジショニングの設計そのものからやり直すことになり、それがひいては、マーケティング・ミックスの全面的なやり直しをしなければならないことにもつながっていくからです。
したがって、ポジショニングの切り口が不適切であることがアンダー・ポジショニングの原因である場合には、ポジショニング戦略の抜本的な再検討をしなければなりません。
2-2.オーバー・ポジショニングとは?
第2のミスは、オーバー・ポジショニングをしてしまうことです。
「オーバー・ポジショニング」とは、顧客側から見て、製品のポジションがあまりにも狭い範囲しかカバーしていないイメージに捉えられてしまうミスです。
紳士服販売店の例で見てみましょう。
実際には、高価格帯のスーツだけではなく、中価格帯のスーツも扱っているにもかかわらず、顧客が抱いているイメージとしては、高価格帯のスーツしか扱っていない店だと感じてしまうような場合です。
深刻なオーバーポジショニングの状態に陥ってしまいますと、本来なら顧客に買ってもらえたはずの製品が買ってもらえなくなるという販売機会の損失が引き起こされます。
そうなりますと、売上げ不振になるだけでなく、在庫コストがかさむため、せっかく開発された製品が育っていかなくなってしまいます。
もっとも、オーバー・ポジショニングの場合はそれほど深刻ではありません。
ポジショニングが狭い範囲だけに効きすぎている状況であって、その範囲を修正して広げていけば良いからです(ポジションの強化から希釈への変更)。
つまり、事後的な修正対応の面において、ポジショニングそのものが効いていないアンダー・ポジショニングほど深刻ではありません。
したがって、オーバー・ポジショニングの状態であると正確に認識できた場合には、効きすぎているポジショニングを希釈し(強すぎるイメージを薄めて)、顧客が抱くイメージの範囲を広げていくようにしましょう。
2-3.混乱したポジショニングとは?
第3のミスは、混乱したポジショニングをしてしまうことです。
「混乱したポジショニング」とは、顧客側から見て、セグメント内におけるその製品のポジションに統一感がないため、混乱状態へと導かれてしまうミスです。
販売促進のためのキャンペーンごとに異なるテーマが採用され、とても一貫しているとは思えないイメージが訴えられている場合には、顧客がその製品に抱くイメージが一様でないため、どうしても頭の中が混乱してしまいます。
これでは、強い支持を得られるどころか、そもそも選ばれなくなります。
実際に、優れたポジショニングを設計している企業では、製品に持たせるべきイメージのルールブックとも呼べる「ブランド憲章」を設けて、統一感のあるイメージを顧客に届けるようにしています。
ブランド憲章では、製品それぞれのデザイン面やコミュニケーション面において、変更しても良い部分と変更してはならない部分を明確に定めて、その売り手企業全体として統一感のあるイメージを守るように努力しています。
したがって、混乱したポジショニングになることを避けるため、売り手はブランド憲章を設けるなどして、統一感のあるイメージを訴えるようなポジショニング設計をしていきましょう。
3.適切なポジショニング設計のためにリーダーが考えるべきポイントとは?
セグメンテーションやターゲティングによって、自分の強みと顧客ニーズが上手くマッチするターゲットセグメント(細分化された標的市場)を設定しても、そこにはライバルの類似製品が溢れています。
そのため、ライバルの類似製品との競争に勝って、顧客に自分の製品を選んでもらえるようなポジショニングをしなければなりません。
そこで、適切なポジショニング設計のためにリーダーが考えるべきポイントとして、「掛け算の発想」をすると良いでしょう。
「掛け算の発想」とは、
顧客ニーズ✖️自分が好きなこと・得意なこと(経営資源)✖️自分の製品の強み(独自性)
という視点で考えることです。
ポジショニングの目的は、顧客の頭の中において、ライバルの製品と差別化を図れるような自分の製品イメージの明確化にあります。
したがって、顧客が自身のニーズに照らして、その市場における製品たちに対してどのようなイメージを抱くかをまず考えましょう。
顧客の視点に立って、顧客ニーズから生まれる望ましい製品イメージを考えるのです。
次に、顧客ニーズを満たすような製品イメージを作り上げるために、自分が持っている経営資源をどのように活かせるかを考えましょう。
経営資源とは、一般的には、人、モノ、カネ、情報のことを言いますが、それらを組み合わせてできることの中でも自分が好きなことであり、得意なことです。
自分が好きなことであるからこそ、継続してマーケティング努力をやり続けることができるからです。
また、得意なことであるからこそ、ライバルの類似製品と差別化を図れるような製品イメージを作り出すことができるからです。
最後に、ライバルの製品と比較しながら、自分の製品の強みをとことん深掘りして考え、なければ開発努力をして作り出し、そして、効果的に顧客に訴えかけていくことを考えましょう。
つまり、適切なポジショニング設計のためには、
顧客ニーズ×経営資源×独自性という3つの要素の掛け算で考えるようにすると良いでしょう。
以上、リーダーの方は、適切なポジショニング設計により、ライバルの類似製品と差別化できるような確固たる製品イメージの明確化を図ることで、自分の製品が顧客から選ばれ続けるようにしていきましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第13回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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