リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第10回)
〜ターゲティングとは?~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
さて、前回の記事(第9回)では「顧客ニーズを捉えるためのセグメンテーションとは?(後編)」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第9回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
今回のテーマは「ターゲティングとは?」です。
前回までの記事で、顧客ニーズが多様化している現在では、市場全体を一括りに捉えるのではなく、共通したニーズを持つ顧客グループごとに市場を細分化する「セグメンテーション」を行う必要性についてご説明しました。
セグメンテーションを行った後は、市場の中の複数のセグメント(区分け)のどれをターゲットとするかを考えねばなりません。
市場の中の特定のセグメントをターゲットとして狙いを定めることを「ターゲティング」といいます。
それでは、効果的なマーケティング・ミックスを展開して顧客から支持され続けるようになるためには、どのようにターゲティングを行えば良いのでしょうか?
そこで、今回は「ターゲティング」について具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.ターゲティングとは?
「ターゲティング」とは、
セグメンテーション(=市場細分化)によって細分化された複数のセグメント(区分け)を分析・評価して、どのセグメントをターゲットとするのかについて決めることをいいます。
つまり、セグメンテーションをした後は、次にターゲティングをしてターゲットとして狙うセグメントを選択します。
ターゲティングでは、そのセグメントの顧客ニーズと売り手の強みが上手くマッチするセグメントを選択する必要があります。
適切なセグメントをターゲットとして選択できれば、効果的なマーケティング・ミックスを展開することができ、顧客ニーズに十分に応えることができるからです。
2.ターゲティングにおける3つのマーケティング戦略とは?
ターゲティングと言っても、売り手が持つ経営資源や目的によって、ターゲットとするセグメントの種類や、それに対するマーケティング戦略が異なってきます。
つまり、セグメントごとの顧客のニーズや売り手が採用したいマーケティング戦略によって、ターゲティングの方針も変わってくるのです。
そのため、ターゲティングにおけるマーケティング戦略には、「無差別型マーケティング」「差別型マーケティング」「集中型マーケティング」という3つの考え方があることを知っておきましょう。
2-1.無差別型マーケティングとは?
「無差別型マーケティング」とは、
各セグメント間のニーズの違いではなく、共通点に注目することで、共通するニーズに応える製品やサービスを提供していこうとする考え方です。
これは一見、セグメンテーションをした意味がないのではないかと思われるかもしれません。
しかし、それは違います。
事前にセグメンテーションをしたからこそ、各セグメント間の違いや共通点を浮き彫りにすることができたのです。
そして、売り手は、大量生産・大量販売という規模の経済性を最大限に活用し、効率の良いマーケティング・ミックスを展開するために、無差別型マーケティングを戦略として選択します。
具体例としては、ファーストリテイリング社・ユニクロによるフリースやヒートテックなどの商品が挙げられます。
ただし、無差別型マーケティングを成功させるには、厳しい条件があります。
そもそも、各セグメントの垣根を越えて幅広い顧客に支持されるような製品やサービスを開発することは、極めて困難です。
巨大な資本力を背景とした製品開発力、大量生産・大量販売を可能とする生産力・組織力、広範な流通力、マス・コミュニケーション力などといった、豊富な経営資源を持っている売り手でないと実現不可能だからです。
したがって、無差別型マーケティングを採用してうまくいくのは、巨大な資本を背景とした製品開発力などを有するごく一部の売り手に限られます。
つまり、一部の例外的な売り手を除いて、無差別型マーケティングが今日の市場において有効に機能する例は極めて少ないといえます。
2-2.差別型マーケティングとは?
「差別型マーケティング」とは、
複数の異なるセグメントに狙いを定めて、各セグメントに対して異なる製品やサービスを提供していこうとする考え方です。
つまり、差別型マーケティングは、セグメントごとの顧客ニーズの違いに注目し、その違いに対応した製品やサービスを開発・提供して、複数の異なるセグメントごとにきめ細かく対応していきます。
それぞれのセグメントごとの顧客ニーズに合致する製品やサービスを開発・提供することができれば、売り手は顧客から強い支持が得られるからです。
したがって、顧客ニーズが多様化している現在の市場の状況を見ますと、差別型マーケティング戦略を採用するのは合理的であるといえます。
差別型マーケティングの例としては、
トヨタ自動車を始め、各大手自動車メーカーが小型車から大型車まで様々な車種を提供しているのが良い例でしょう。
顧客の予算や車の使用目的はそれぞれのターゲット層ごとに違いますから、そこから生まれる顧客ニーズの違いに対応した幅広い車種を提供しているのです。
もっとも、差別型マーケティングを実施するためには、複数のターゲットセグメントごとに個別のマーケティング・ミックス計画を立案し展開していかなければなりません。
そのため、差別型マーケティングの弱点として、経営資源に限りがある中では、どうしても効率面において劣ってしまうという点が挙げられます。
実際、1種類の製品を100個製造する場合には、同じ生産設備を同じ技術やノウハウを使って製造すれば良いので、効率的です。
他方、10種類の製品をそれぞれ10個ずつ製造するには、10種類ごとの異なる生産設備や技術、ノウハウを使って製造しなければならなくなります。
つまり、手間暇がかかるため、コスト面で非効率になります。
そのため、同じ合計100個の製品を製造するにしても、1種類の製品を作るのと10種類の製品を作るのとでは、かかるコストがかなり変わってくるのです。
したがって、差別型マーケティングを効果的に行うためには、同じ生産設備や技術、ノウハウ、販売網などを使い回しできるような条件を整える必要があります。
つまり、既存の生産設備や技術、ノウハウや販売網をうまく横展開できるような条件を売り手が持っていれば、コスト面での課題をクリアでき、逆に、それが強みになる戦略といえます。
2-3.集中型マーケティングとは?
「集中型マーケティング」とは、
1つ、もしくは、ごく少数のセグメントに注目して、そのセグメントだけに自社の経営資源を集中的に投入しようとする考え方です。
確かに、ごく限られたセグメントの顧客だけをターゲットとするため、多くの顧客の好みを満たすことはできません。
しかし、限りある経営資源を特定のターゲットセグメントに集中投入するため、効率の良いマーケティング・ミックスを展開することができます。
また、特定の顧客の好みや特性を十分に理解しやすいです。
特定顧客の好みや特性といった有益な情報を多く持つことで、顧客ニーズを満足させるきめの細かい製品開発や対応をすることができます。
その結果、そのターゲットセグメントの顧客からは高い評価が与えられるため、セグメント内での高いシェアを獲得できるようになります。
つまり、集中型マーケティングにより、うまくターゲットセグメントの顧客から強い支持を得られれば、そのセグメント内ではナンバーワン企業になることもできるのです。
集中型マーケティングとは、まずは狭い領域に経営資源を集中投入してナンバーワンになるための戦略といえます。
したがって、集中型マーケティングは、経営資源の限られている中小零細企業などの売り手がとるべき戦略と言えるでしょう。
高級スポーツカーを提供しているフェラーリは、高級車の製造販売に特化しているだけあって、販売台数シェアでは世界最大の自動車メーカーとなったトヨタ自動車には及びません。
しかし、高所得者層の自動車好きを中心に、ニッチな範囲で根強いファンを獲得しており、そもそも販売価格で他社と競争する必要がありません。
開発費を抑えて利益を上げるという多くの自動車メーカーがとっている戦略ではなく、フェラーリの場合は、利益率を基本にして開発費の逆算から価格設定をできるだけの強いブランド力を持っています。
そのため、販売規模だけでなく利益率も最高レベルにあるトヨタ自動車ですら10.2%ほどの利益率であるところ、フェラーリの利益率は20%超というかなりの高利益体質を実現できています。↓
(出典:WEB CARTOP 世界最強の自動車メーカー「トヨタ」も敵わない! 唯一無二の強みをもつ自動車メーカー4選 | 自動車情報・ニュース WEB CARTOP)
フェラーリは、集中型マーケティングを展開して、ニッチ市場でのナンバーワンの地位を築いていると言えるでしょう。
ただし、特定のターゲットセグメントに過度に集中して依存するようになってしまいますと、そのセグメントが不振に陥った場合には、共倒れになる危険性があります。
また、高い利益が見込めるとわかれば、そのターゲットセグメントに強力なライバルが参入してくることも十分に考えられます。
したがって、集中型マーケティングを行う売り手は、特定のターゲットセグメントだけに依存するのではなく、顧客ニーズが類似している複数のセグメントで事業展開をすることで、リスクの分散を図っています。
また、独自の技術やノウハウを磨いて、常に差別化を図ることで、ターゲットセグメントの防衛を図っています。
3.ターゲティングにおける3つのマーケティング戦略のうち、どれを選択するか?
ターゲティングにおけるマーケティング戦略のうち、「無差別型マーケティング」「差別型マーケティング」「集中型マーケティング」のどれを選択して実行していけばよいのでしょうか?
答えは、売り手自身が持っている経営資源や強みとターゲットセグメントにおける特定顧客のニーズとの相性、そして、強いライバルがいるかによって決まります。
マーケティング戦略の基本は、ターゲット層の顧客ニーズを正確に把握し、そのニーズを満足させられるようなマーケティング・ミックスを設計して実行することです。
そのためには、特定顧客から強い支持を得られるような独自性のある製品を開発し、提供していく必要があります。
そこで、売り手の経営資源及び強みと顧客ニーズがうまくマッチするような、そしてライバルと差別化が図れるようなセグメントをターゲットに選びましょう。
「孫子」の兵法で言えば、勝てる戦場を選び、そこに兵力を集中投入して、勝てそうな相手に戦いを挑んで勝つことがポイントなのです。
以上の点から、リーダーの方は、セグメンテーションとターゲティングを慎重に行い、自分の強みを生かせる戦略をとっていきましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第11回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑬WEB CARTOP
世界最強の自動車メーカー「トヨタ」も敵わない! 唯一無二の強みをもつ自動車メーカー4選 | 自動車情報・ニュース WEB CARTOP
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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