リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第23回)
〜成長が行き詰まった時の新たな戦略の見つけ方とは?~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者・マーケティング初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
前回の記事(第22回)では、「企業の現状や課題を分析するための思考枠組みとは?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第22回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
効果的なマーケティング・ミックス4Pを設計・実行して顧客満足を実現するためには、社内環境要因としての「強み」と「弱み」、そして社外環境要因としての「機会」や「脅威」を冷静に分析する必要があります。
その分析に役立つ思考枠組みが「SWOT分析」だというお話でした。
さて、今回のテーマは「成長が行き詰まった時の新たな戦略の見つけ方とは?」です。
効果的なマーケティング・ミックス4Pの設計・実行により新製品を開発して顧客満足を実現し、大成功を収めた売り手企業であっても、その成功が永遠に保証されるわけではありません。
むしろ、1つの大成功を収めた製品にすがりつくことで、過去の成功体験に引きずられ、新たな成長の機会を見い出すことができない企業も多いです。
では、成長が行き詰まった時に、次にどのような新しい戦略を考えて企業全体の継続的な成長を図れば良いのでしょうか?
そこで、今回は「成長が行き詰まった時の新たな戦略の見つけ方」について具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.アンゾフの成長ベクトルとは?
戦略的経営の父として有名な経営学者のイガー・アンゾフは、企業の成長図式として、製品・市場マトリックスからなる「成長ベクトル」という枠組みを提示しました。
「成長ベクトル」とは、企業が対象とする市場(既存市場か新市場か)と、提供する製品(既存製品か新製品か)という2つの軸により、企業の成長ベクトルについて整理する思考枠組みです。
具体的には、市場軸と製品軸のそれぞれについて事業を既存・新規によって分類することにより、①市場浸透戦略、②市場拡大戦略、③新製品開発戦略、④多角化戦略という4つの戦略類型が出来上がります。
アンゾフは、企業が長期的な成長目標を達成するためには、これら4つの戦略の組み合わせを考えていくことが必要だと主張しました。
成長ベクトルの思考枠組みにより、成長が行き詰まった時に備えて新たな戦略を考えることができます。
もちろん、4つの戦略それぞれの成長目標への貢献度は、企業の現在及び将来にわたる市場地位、各市場の成長性、企業の保有資源などによって異なってくることに注意が必要です。
2-1.市場浸透戦略
「市場浸透戦略」とは、既存製品を既存市場に提供し続ける企業がプロモーションの工夫を凝らすことなどにより、既存市場内の顧客の数を増やしたり、製品の使用頻度や使用量を増やしていくための戦略です。
市場浸透戦略は、一見真新しいものは何もないように見えますが、プロモーションの工夫を凝らすことなどによる施策が成功して市場浸透を実現できれば、まだまだ成長が期待できます。
いわば、ターゲットセグメント(標的市場)の中でまだ既存顧客にしきれていない層の人たちに顧客になってもらえるようにしたり、製品の使用量や使用頻度を拡大するための活動をしていく戦略です。
ただし、市場浸透戦略が成功するためには、市場の需要がまだまだ成長力を持っていることが前提になります。
既存の製品と既存の市場で成長を果たそうとするわけですから、市場内に新規顧客になってくれる層の人々がまだまだいることが前提になるわけです。
そして、市場需要の成長力を高めるためには、市場需要の普及・拡大を図る必要があります。
それでは、市場需要の普及・拡大を図るには、具体的にどのようなマーケティング活動をしていけば良いのでしょうか?
市場浸透戦略におけるマーケティング活動の具体例を以下に見ていきましょう。
①製品の利用者数を増やすためのマーケティング活動
大塚製薬のオロナミンCは、売り上げの大半が中年男性のヘビーユーザーからのものであることに気づき、利用者数の拡大を図るために「小さな巨人」キャンペーンを実施しました。
その結果、子供から主婦までの利用者層の拡大を実現し、売り上げを拡大させました。
②一回当たりの製品使用量を拡大するためのマーケティング活動
一回当たりの製品使用量を増やす方法で有名なのは、味の素が容器の穴を大きくした例があります。
穴が大きければ、毎回知らぬ間に多めに使用してしまうであろうからです。
また、仏タイヤメーカーのミシュラン社は、フランス全土のレストランを紹介するガイドブックを作りました。
ユーザーが週末に車でおいしい料理を食べに行くことで、タイヤが早くすり減り、タイヤの買い替え需要につながることを狙ったのです。
さらに、花王の衣料用漂白剤「ワイドハイター」では、洗濯1回当たりの使用量の増加を狙うため、つけ置き使用やポイント使用ではなく、洗濯槽の中に直接漂白剤を入れる使用法を提案しています。
③顧客一人当たりの製品の使用頻度を増やすだめのマーケティング活動
優れたマーケターは、自社製品の使用場面の開拓をおこないます。
その製品の使用場面を広くし、もっと頻繁に利用してもらうような工夫をするためです。
例えば、ビール会社は、ビールを瓶入りから缶入りに包装を変えることで、居酒屋などの店内消費や家庭内消費から、アウトドア消費へとビール消費の場面を飛躍的に拡大させました。
また、カップスープのクノールは、朝食時やおやつ時にもスープを飲んでいるシーンのCMを流すことで、夕食時だけでなく、朝食時やおやつ時にもスープを飲んでもらえるように、つまり、製品の使用頻度が増えるように工夫しました。
消臭剤や防虫剤で有名なエステーは、冷蔵庫の匂いを取る「脱臭炭」を販売しています。
従来は、使用期間が終わってもそのまま放置されがちで、取り替え時期がユーザーに分かりにくいことが弱点でした。
そのため、買い替え需要を喚起しきれていませんでした。
そこで、ユーザーに製品の適切な取り替え時期を知らせることで使用頻度を高めるため、有効期間が経過すると容器内のゼリー状の炭が小さくなり固形化するように工夫したものを発売しました。
④その他のマーケティング活動
市場浸透戦略は他にも、自社の製品ラインにおいて、低価格品から高価格品に顧客がシフトするようにプロモーションを工夫しても良いです。
また、一時的に価格を下げるなどして、ライバルの類似製品からスイッチさせることで、自社製品の市場浸透を図ることもできます。
2-2.市場拡大戦略
「市場拡大戦略」とは、既存製品を新市場に向けて投入することで新しい顧客を獲得し、新たな成長を狙うための戦略です。
市場拡大戦略の典型的なものは、市場の国際化を図ることです。
例えば、第二次世界大戦以前の我が国の国内市場の未成熟さは、繊維産業を中心とした企業の積極的な海外進出の原因になりました。
また、逆に我が国の医薬品産業に見られるように国内市場が成熟化しているために、国内医薬品市場の薬価低下などの理由による売上げ低迷に伴って、各社とも盛んに市場の国際化に挑戦している例もあります。
我が国における醤油市場も同様に成熟化しており、洋食文化の浸透とともに醤油の消費量は長らく低下傾向にありました。
そこで、醤油メーカー最大手のキッコーマンは、アメリカをはじめ欧米への新市場に進出することで大きな成功を収めました。
他方、市場の国際化とは異なる市場拡大戦略としては、例えば、花王の「ビオレ毛穴すっきりパック」を「メンズビオレ毛穴すっきりパック」に拡大したように、女性向けの製品を男性向けの製品に拡大するやり方があります。
その逆の例として、制汗剤・スキンケア製品としての「シーブリーズ」が挙げられます。
長い間、ターゲット層を「マリンスポーツを楽しむ20代から30代の若い男性」としてきましたが、売上げの低迷に伴い、ターゲット層を新たに「部活の後に汗を拭く女子高生」に変更して新しい市場を拡大し、復活を果たしました。
最後に、当初はベビー用として開発されたジョンソン&ジョンソンの「ベビーローション」の例があります。
市場調査の結果、肌に優しいという理由から、肌が弱かったり、肌に気を使ったりする大人たちにも受け入れられていることが分かりました。
そこで、大人も使える製品として市場を拡大させています。
2-3.新製品開発戦略
「新製品開発戦略」とは、既存市場に向けて新製品の導入で成長を目指す戦略のことです。
新製品開発戦略は、いわゆる新製品の開発による製品ラインの拡大です。
従来の既存製品を軸足としながらも、新たに開発した製品を加えることにより、同一顧客層に対して多様な製品のラインナップを構築して提案します。
また、新製品を開発することで、既存製品からの切り替えを積極的に行い、既存顧客の新たな需要を引き起こすことを狙います。
典型的な例は、トヨタクラウンからレクサスへなどと新製品開発が次々と行われる乗用自動車産業によく見られます。
同様のことは、シャンプーや化粧品などの日用消耗品、インスタント麺やお菓子類などの食料品にもいえます。
毎年のように、新しいサイズ、風味、デザインなどを刷新した新製品が売り出されています。
「新」と称して次々と新しい製品を既存市場に投入し、まだ取り込めていない顧客を開拓することで成長を狙っています。
さらに近年では、特にパーソナル・コンピューターのバージョンアップ戦略にも新製品開発戦略が見て取れます。
なお、新製品開発戦略を行う場合に注意すべき点は、既存製品のユーザーに一定の配慮をしなければならないことです。
あまりに急激な新製品の発売は、既存ユーザーに対して用途や予算を超えた頻繁な買い替えを実質的に要求することになり、不満の拡大につながることになるからです。
2-4.多角化戦略
「多角化戦略」とは、新製品を開発・生産して新市場に参入することで、全く新しい形での成長を狙う戦略です。
多角化戦略は、既存製品や既存市場とは切り離された新たなビジネスに乗り出したり、他社のビジネスを買収したりするため、全く新しい成長機会を得る可能性があります。
また、多角化戦略に成功すれば、企業全体のリスク分散を図ることができ、収益を安定させることができます。
ただし、多角化戦略は、従来の事業活動とは全く異なる新たな事業活動になりますので、新たなリスクもまた大きくなります。
新規事業への知識、経験、ノウハウ、組織、人脈などがないためです。
例えば、酒造メーカーがアルコール飲料市場から清涼飲料市場へ進出したり、調味料メーカーが調味料事業から食品事業などに進出するといった例は、製品や顧客が既存の市場と比較的近いところにあるため、大きなリスクを伴うことは無いかもしれません。
しかし、製鉄所が農業や畜産業に進出したり、化学メーカーが原子力事業に進出するなどは、既存事業とは遠いところにあるため、かなりリスクの伴う大胆な多角化戦略になるでしょう。
そのため、多角化戦略のメリットを生かしつつ、リスクを引き下げる戦略をとるのが賢いといえます。
したがって、既存の製品や既存の市場でビジネスを行うことにより得てきた知識や経験、ノウハウ、組織、人脈などを活用できるような形で新製品開発及び新市場への参入をする戦略で行くのが良いでしょう。
3.成長ベクトルの4つの戦略のうちどれを選ぶか?
一般的には、企業の主な参入市場が成長期であるほど市場浸透戦略の成功確率が高いといえます。
参入市場の中のまだ取り込めていない潜在顧客が多いからです。
他方、市場が成熟期であるほど、多角化戦略の成功確率が高いでしょう。
成熟期の市場は、類似製品で溢れかえっており、新規顧客の拡大が見込めない以上は顧客の奪い合いになっているからです。
ただ、新製品の開発、新市場への参入という多角化戦略が成功した時のメリットも大きいので、リスクを取ってでも新たな成長の機会にチャレンジする価値はあるといえます。
最後に、戦略がうまくいくかどうかは、製品と市場との論理的なつながり(フィット感)が大切です。
論理的なつながりがあるからこそ、ターゲット層の顧客からの納得感や、支持を得られるからです。
したがって、成長ベクトルの4つの戦略のいずれも、製品と市場との論理的なつながり(フィット感)を大切にしながら、新たな成長につながるような戦略を選択する必要があります。
以上、リーダーやマーケターの方は、成長ベクトルの4つの戦略のうち、自社の知識や経験、ノウハウ、組織、人脈などの「強み」を論理的に活かせるような戦略を選ぶことで、ビジネスの新たな成長を目指しましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第24回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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