リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第22回)
〜企業の現状や課題を分析するための思考枠組みとは?~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
前回の記事(第21回)では、「なぜ自社の存在意義を考え、それを成文化するのか?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第21回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
自社の存在意義というのは、マーケティング戦略の出発点であり、経営判断に迷ったときに立ち返るべき原点というお話でしたね。
また、自社の存在意義をミッション・ステートメントという形で成文化しておくと、地理的に離れた組織のメンバーとも企業の理念や目的を共有し、顧客満足実現に一体となって協働することができるということでした。
さて、今回のテーマは「企業の現状や課題を分析するための思考枠組みとは?」です。
売り手企業は、効果的なマーケティング・ミックス4Pを設計し、実行することで、顧客満足を追求していきます。
ただ、そのためには、社内環境要因としての売り手企業自身の強みや弱み、また、社外環境要因としての機会や脅威を考えなければなりません。
では、強みや弱み、また、機会や脅威を上手く組み合わせて分析するような思考方法はあるのでしょうか?
そこで、今回は「企業の現状や課題を分析するための思考枠組み」について具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.SWOT分析とは?
企業の現状や課題を分析するために役立つ思考枠組みとして、SWOT分析があります。
「SWOT分析」とは、社内環境要因としての売り手企業自身の強みと弱み、社外環境要因としての機会と脅威の4つの視点から、企業が直面する現状や課題を分析するための思考枠組みのことです。
SWOTとは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」という4つの視点の頭文字をとったものです。
SWOT分析の目的は、機会×強み、機会×弱み、脅威×強み、脅威×弱みとかけ合わせて考えていくことで、自社の現状分析から実行への戦略策定に生かすことです。
したがって、リーダーやマーケターの方は、SWOT分析により、企業の内外を取り巻く諸々の環境の中で、自社はどのように戦略的に対応していくのかを決めていきましょう。
2.社内環境要因としての強みと弱みの分析とは?
売り手企業を取り巻く諸々の環境について、大きく社内環境要因と社外環境要因のそれぞれに分けて見てみましょう。
まずは、売り手企業の社内環境要因として「強み」と「弱み」の2つの視点から分析していきます。
厳しい競争に勝って顧客から選ばれ続ける売り手企業になるためには、適切なマーケティング・ミックス4Pを設計し、実行していかなければなりません。
そして、そのためには、まずは売り手企業自身の強みは何か、逆に、弱みは何かを冷静に分析していく必要があるからです。
企業内には営業、経理・財務、製造、総務、広報などの各部門があり、それぞれの部門で価値を生み出すために社員が働いています。
経営戦略の第一人者であるマイケル・ポーター教授は、「バリューチェーン」というフレームワークを使って、自社の強みを分析することを1970年代に提唱しました。
バリューチェーン分析では、企業の事業活動を社内の各部門が果たしている機能ごとに分類し、どの機能で付加価値を生み出しているのかを分析していきます。
まず、企業の事業活動を購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスなどの「主活動」と、人事・労務管理、研究開発、全般管理、調達などの「支援活動」に分けます。
この作業を自社だけでなく競合他社の分も行い、両方を比較検討していきます。
例えば、自社の強みとしては、競合他社よりも技術力で一歩リードしていることや、原材料の供給ルートが安定していて、しかも低コストで調達できることなどが挙げられます。
他方、自社の弱みとしては、営業拠点が少なくてターゲット顧客にリーチしきれていないことや、人員不足のため顧客対応に漏れが出ていることなどが挙げられます。
このように、バリューチェーン分析により、自社の強み・弱みを把握することができ、マーケティング戦略の策定に役立つのです。
なお、有効なマーケティング戦略を策定し実行するためには、すべての弱みを克服する必要はありません。
他社と差別化できるだけの強みがあれば、それで補うことができるからです。
他方で、顧客満足を実現させ、継続的に顧客から支持し続けてもらうためには、強みがあるというだけで満足してもいけません。
長期的な顧客との信頼関係の構築のためには、やはり顧客が不満を抱くような弱点は、遅かれ早かれ克服していく方が売り手企業として信頼されるからです。
したがって、リーダーやマーケターの方は、何が自社の強みであるのかを認識し、強みを磨いて競合他社との差別化を向上させていきましょう。
それと同時に、長期的に足を引っ張りかねないような弱みも、改善・改良を重ねて克服していくようにしましょう。
3.社外環境要因としての機会と脅威の分析とは?
次に、売り手企業を取り巻く社外環境要因として「機会」と「脅威」について分析していきます。
売り手企業に影響を及ぼす社外環境要因には、マクロ環境とミクロ環境があります。
マクロ環境には、デモグラフィック環境(人口動態的環境)、経済的環境、政治的・法的環境、技術的環境、自然環境、社会的・文化的環境があります。
特に、政治的影響(Politics)、経済的影響(Economics)、社会的・文化的影響(Society)、技術的影響(Technology)の4つの英語の頭文字をとったPEST分析はマクロ環境を分析する手法として広く活用されています。
マクロ環境が変化しますと、ミクロ環境に位置している売り手企業に大きな影響を与えることが多いです。
したがって、リーダーやマーケターの方は、最新のトレンドや情勢に十分注意を払いながら事業を進めていく必要があり、マクロ環境の変化に応じてマーケティング戦略を柔軟に修正していかなければなりません。
次に、ミクロ環境としては、①業界内の競争関係(競合他社)、②新規参入の脅威、③売り手の交渉力、④買い手の交渉力、⑤代替品の脅威という、5つの競争要因が挙げられます。
マイケル・ポーター教授は、この5つの競争要因が業界(企業が狙う市場)全体の収益性に影響を与えるとしています。
したがって、リーダーやマーケターの方は、ミクロ環境である業界内の情勢変化についても常にアンテナを張り、情勢の変化に応じてマーケティング戦略の修正、変更を行っていきましょう。
では、「機会」と「脅威」は具体的にどのように把握すれば良いのでしょうか?
まず、「機会」は魅力度と成功確率という2つの要素で判断することができ、<魅力度×成功確率=機会>という式で表すことができます。
例えば、魅力度としては大きくても、成功確率が低かったら、機会はそれほど大きくはありません。
魅力度も成功確率も大きく、全体として大きな機会であれば、チャンスを逃さないように、マーケティング戦略をしっかり策定して、迅速に動ける準備をしておきましょう。
次に、「脅威」については深刻度と発生確率という要素で判断することができ、<深刻度×発生確率=脅威>という式で表すことができます。
例えば、深刻度としては小さくても、発生確率が大きい場合にはそれなりの脅威として注意しなければなりません。
全体として小さな脅威であれば、当面の間は放置することもできますが、大きい脅威の場合には、早急に対応策を練り、準備しておく必要があります。
4.クロスSWOT分析とは?
「クロスSWOT分析」とは、SWOT分析で導き出した4つの環境要因を、機会×強み、機会×弱み、脅威 ×強み、脅威 ×弱みとかけ合わせて、今後のマーケティング戦略を考えていく分析手法です。
具体的には、地元密着型のレストランを経営している企業を例にして、次のように分析していきます。
①機会×強み
自社の強みを活用して事業機会(ビジネスチャンス)を取り込むにはどうすれば良いかを考えます。
例えば、新しいマンションができて家族連れが増えてきたという機会があるとします。
そして、地元密着型の自社の強みとして、地元の客が多いこと、リピーター率が高いこと、自社サイトを制作して運営していることなどがあるとします。
こういう場合には、地域密着性を生かしてチラシを配布したり、自社運営サイトでのクーポン配布をしたりして、自社の強みを活用して事業機会を活かすようにすると良いでしょう。
②機会×弱み
事業機会に対して自社の弱みのせいで機会損失をするのを回避するにはどうしたら良いかを考えます。
例えば、新規の顧客が少ないことやグルメサイトでの評価数が少ないことなどが弱みとして考えられる場合には、ファミリー層の増加という機会を生かして、子供向けメニューを充実させるなどの対策をしてみると良いでしょう。
③脅威×強み
自社の強みを活用して脅威を回避するにはどうすれば良いかを考えます。
例えば、低価格が売りの競合店が増えてきたことや食材の値上がりなどの脅威がある場合には、地元の客が多く、リピーター率も高いという強みを活かして、品質で勝負する戦略で行くのが良いでしょう。
④脅威×弱み
自社の弱みと脅威のダブルパンチで起こる最悪の事態を回避するにはどうすれば良いかを考えます。
例えば、低価格が売りの競合店が増えてきて、しかも食材の値上がりという脅威がある上に、新規の客が少なく、グルメサイトでの評価数も少ないという弱みがある場合には、まずは新規の顧客層から認知、来店してもらわなければ話になりません。
そこで、品質勝負のレギュラーメニューとは別の低価格メニューを作って、新規のお試し客を呼び込む戦略で行くのが良いでしょう。
以上、リーダーやマーケターの方は、社内外の環境要因の変化に常にアンテナを張り、SWOT分析を活用することで、事業機会に対して自社の強みをうまく活かせるようにしていきましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第23回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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