リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第19回)〜顧客満足を実現するための組織のあり方とは?~

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リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第19回)
〜顧客満足を実現するための組織のあり方とは?~

 

こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。

誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。

このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。

前回の記事(第18回)では「顧客生涯価値と顧客シェア」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第18回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)

真の顧客ニーズを的確に捉えるためには、セグメント(=細分化されたターゲット市場)の中の顧客ニーズを全体的に捉えるのではなく、個々の顧客ニーズのレベルにまでもっと細かく分析していく必要があります。

そのために役に立つ考え方が「顧客生涯価値」と「顧客シェア」というお話でした。

今回のテーマは「顧客満足を実現するための組織のあり方とは?」です。

効果的なマーケティング戦略を設計しても、それを適切に実行できる組織がなければ、顧客からの支持は得られません。

低迷するUSJをV字回復させたことで著名なマーケターの森岡毅氏もその著書のタイトルで『マーケティングとは「組織革命」である。』と主張しています。

どんなに立派な戦略を立てたとしても、組織のメンバーのそれぞれが戦略の目的や趣旨を理解し、チームとして実行できなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます

そこで、今回は「顧客満足を実現するための組織のあり方」について具体的にご説明して参ります。それでは行ってみましょう!

 

1.従来のピラミッド型組織とその問題点とは?

多くの企業では、高い顧客満足を実現するためのマーケティング戦略の実行にあたって、組織改革が必要であることが多いです。

しかし、従来の多くの企業では、顧客満足の視点と組織設計とを結びつけて考えられることはありませんでした。

多くの伝統的な組織では、リスクを引き下げ、資本効率を引き上げるために、上位下達による指揮命令系統が明確なピラミッド型組織が採用されてきました。

これは、経営陣の方針が末端メンバーの隅々まで間違いなく正確に行われるようにすることを重視した組織であり、一糸乱れぬ統制を実現するためには効率の良い組織形態です。

そのため、緊急時対応が必要な軍隊警察組織などにおいて採用され、また、創造性よりも前例踏襲型の安定性が重視される官僚組織においても採用されてきています。

緊急時に現場ごとに異なる判断をされたのではチーム全体として効率的に動けませんし、また、現場での創意工夫を尊重するあまり、各現場での対応が違ったのでは組織としての公平性や一貫性が保てなくなるからです。

そのため、多くの大企業においても、組織が大きくなるにつれて安定的な組織運営を重視するようになり、ピラミッドの頂点に経営陣を位置づけ、彼らが企業の戦略を決定するピラミッド型組織形態を採用しています。

そして、ピラミッドの中間に位置するマネージャー層は、現場スタッフに対して、経営陣によって決定された企業戦略の遂行を指示して管理する役割を担います。

最後に、末端の現場スタッフは裁量の幅はほとんどなく、その代わりに、マネージャーの指示を機械的かつ忠実に実行すれば責任を果たしたことになっていました。

確かに、ピラミッド型組織は、組織のリーダーからの指揮命令を末端メンバーの隅々にまで行き渡らせ、安定的な組織運営を実現するためには効率的な組織形態です。

しかし、前例踏襲型の安定的組織運営や緊急時への機動的対応を重視するあまり、現場レベルでの創意工夫を犠牲にしてしまいがちです。

末端のメンバーになるほど、受け身型人間が多くなる傾向にあります。顧客への創意工夫の努力ではなく、上司の顔色を伺いながら仕事をする傾向が強まるのです。

また、顧客からの要望に応じて現場での臨機応変な対応が求められる場合にも、いちいち上層部の指示を仰いでからの対応になりますので、柔軟性や機動性に欠け、顧客の不満が募ることになります。

したがって、現場での自発的な創意工夫が生まれにくく、柔軟性や機動性に欠ける点がピラミッド型組織の弱点になります。

 

2.逆さまのピラミッド型組織とは?

ピラミッド型組織の弱点を克服するために、「逆さまのピラミッド」の考え方が提唱されています。

これは、スカンジナビア航空の経営不振を短期間で立て直したヤン・カールソン氏による「真実の瞬間」という考え方が背景にあります(後述)。

逆さまのピラミッド」とは、伝統的なピラミッド型組織を逆さまにし、最も高い部分に顧客を位置づけ、その下に顧客に直接応対する現場スタッフを置き、大きな裁量権を与える組織形態です。

現場スタッフに大きな裁量権を与える理由は、現場スタッフは顧客に直接応対するため、顧客ニーズを最も理解できる立ち位置にいるからです。

そして、現場スタッフの下に置かれたマネージャー層は、現場スタッフを上位下達の指揮命令により管理するのではなく、後方から支援するという役割を有するようになります。

つまり、現場スタッフは顧客に奉仕する存在であり、マネージャーは現場スタッフに奉仕する存在という位置づけになります。

最後に、ピラミッドの最下部に位置する経営陣は、現場スタッフに奉仕しているマネージャーを支援する役割を担います。

つまり、マネージャーが仕事をしやすくなるように、経営陣がマネージャーに奉仕する位置づけになります。

経営陣は人事権と予算権限という最も根本的な権限は握りますが、それ以外は企業のビジョンや目標といった大枠の方針を明示するにとどめます

そうすることで組織メンバー全体を動機付けたり方向付けたりはするものの、マネージャーや現場スタッフに細かく指示を出すことはありません。

経営陣は顧客から最も離れた立ち位置におり、生の顧客ニーズを把握しにくいため、現場スタッフやマネージャーに裁量を委ねた方が顧客満足につながるからです。

現場スタッフは組織の方針の枠内であれば、いちいち上司に許可を取らなくても、顧客ニーズに応じて柔軟かつ機動的に対応することが可能になります。

現場スタッフの社内での位置づけや裁量権が高まり、顧客の問題解決に要する知識やスキルが蓄積され高度化すれば、顧客のための創意工夫が生まれやすくなります

顧客対応は改善され、ひいては大きな顧客満足へと結びつくことになるのです。

したがって、逆さまのピラミッド型組織の方が顧客満足の実現に適した組織形態であるといえます。

 

3.最年少CEOによるスカンジナビア航空の組織改革とは?

例として、スカンジナビア航空の組織改革を見てみましょう。

スカンジナビア航空は、長らく業績が低迷していましたが、当時航空業界最年少CEOとして就任したヤン・カールソン氏がたった1年で立て直しました。

立て直しの原動力となった考え方は、彼が提唱した「真実の瞬間」というものでした。

この言葉は、もともとは「闘牛士が闘牛に最後のとどめを刺す瞬間」のことを意味していましたが、彼はこれをビジネス用語として使いました。

顧客調査をしたところ、顧客は航空機自体や本社ビルを思い浮かべて顧客になってくれているわけではありませんでした。

また、同社を利用する年間1000万人の旅客は、搭乗1回あたりで平均すると、5回ほど現場スタッフと接していることが分かりました。

そして、1回あたりの応接時間は約15秒ということも判明しました。

ということは、年間5000万回にも及ぶ15秒の現場スタッフとのやりとりが積み重ねられていることになります。

また、多くの顧客は、自分たちが接した現場スタッフによるサービスへの印象で会社をイメージをしていることが分かりました。

つまり、同社の顧客満足や企業イメージの向上にとって最も重要なのは、顧客にサービスを提供する最前線の現場スタッフということになります。

確かに、会社の知名度は大量広告を打つことにより一時的には上がります。

しかし、会社の信頼度を築き上げるためには、顧客を直接応接する現場スタッフのサービス力が欠かせません。

そこで、顧客がスカンジナビア航空のサービス体験をする15秒間という時間こそが会社の成功を左右すると、ヤン・カールソン氏は考えました。

そして彼は、この15秒間の積み重ねこそが「真実の瞬間」であると主張したのです。

このように、彼は、顧客との1回あたり15秒間という時間において現場スタッフのサービス力を向上させることで、会社を成功させることができると考え、実行しました

具体的には、まず彼は現場スタッフに自分のビジョンを徹底的に教え込みました。

その上で、社内の組織を逆さまのピラミッド型組織へと大変革し、アイデアを出すこと、決定すること、実施することの責任を現場スタッフに委ねることにしたのです。

顧客満足向上のためには、現場スタッフの裁量権と責任を高める必要があったからです。

組織変革の結果、彼が社長に就任した初年度に8千万ドルの収益増を達成することができました。

さらには、1983年には『フォーチュン』が選ぶ「ビジネス旅行客にとって世界最高の航空会社」と評価されるほど、ブランド力のある航空会社になったのです。

 

4.事業単位の分割による柔軟な組織作りとは?

顧客満足を高めるための組織上の工夫としては、事業単位の分割という手段もあります。

事業単位の分割」とは、規模の経済性やコスト効率といったメリットの一部を放棄してでも、肥大化した組織をいくつかの小さな事業単位に分けて、顧客対応やイノベーションを優先させる手段のことです。

大組織では意思決定のプロセスが複雑になるため、機敏で柔軟な対応ができなくなります。

そのため、どうしても顧客への対応が鈍くなりがちです。

そこで、顧客対応力やイノベーション力を向上させるために、事業単位の分割という組織変革を行うのです。

具体例として、冷凍装置や冷蔵装置で有名な前川製作所の例を見てみましょう。

組織変革の必要性を感じた前川製作所は、1984年から事業単位の分割による独立法人化を進め、各社100人程度の74の子会社を設立しました。

そして、各子会社ごとに独自に貸借対照表を作成させ、究極の分権化を進めたのです。

この結果、まず、大企業に所属していることへの社員たちの安心感を取り除き、自らの利益は自分たちで生み出さねばならないという当事者意識を持たせることに成功しました。

そして、意思決定のプロセスが単純化されて早まり、顧客との距離感を一気に縮めさせることができました。

これにより顧客に機動的かつ柔軟に対応することができるようになったため、顧客満足の向上になりました。

前川製作所は事業単位の分割によって、社員たちの、自分が所属する組織に貢献しようというモチベーションと責任感を引き上げることに成功したのです。

 

5.顧客満足を実現するための人材採用・育成とは?

もちろん、顧客満足を実現できる優れた組織を作り出すには、組織の仕組みを変えるだけではできません。

組織というのは人で成り立っています。

優れたマーケティング戦略を立案しても、それを実行できるようなメンバーを採用・育成しなければ顧客満足を実現することはできません

例えば、金融機関の社員には几帳面で真面目な性格の人がふさわしいですし、旅行・接客業の社員はおもてなし精神が豊かで、よく気が利く性格の人がふさわしいでしょう。

採用の段階で同じような性格を有する人物を選んで入社させ、企業理念に合った独自の社風を作っていくのです。

例えば、アメリカのサウスウェスト航空やデルタ航空は、ホスピタリティ重視の社風であるため、人懐っこさで有名な南部出身者を多く採用しています。

高い顧客満足の実現のためには、まずは組織作りの入り口である採用段階から検討していく必要があるからです。

継続的な社内研修やコーチングなどにより、顧客満足実現のための人材育成をしていくことはもちろん大切です。

しかし、採用段階から企業理念やマーケティング戦略にマッチした人材を採用していかねば、育成も難しくなります。

したがって、高い顧客満足を実現できる組織づくりのためには、自社の企業理念やマーケティング戦略の実行にふさわしい人材を採用し、そして、育成する仕組みの両方が必要です

これは、「サービス・プロフィット・チェーン」という枠組みで知られている考え方によるものです。

つまり、優れた人材雇用→従業員への教育や支援→従業員満足の向上→優れた顧客対応→高い顧客満足→高い企業成果、そして再び、優れた人材雇用へと循環するというものです。

以上、リーダーやマーケターの方は、好循環を生み出せるように、逆さまのピラミッド型組織の採用や事業単位の分割、そして、サービス・プロフィット・チェーンの枠組みによる人材採用・育成に取り組んでいきましょう

 

最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第20回)」をお届け致します。

リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。

 

<主な参考文献>

この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。

①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。

もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。

実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。

ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)

 

①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)

②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)

③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)

④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)

⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)

⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)

⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)

⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)

⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)

⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』

(有斐閣、2016年)

⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。

手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。

これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。

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