リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第20回)
〜インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングとは?~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論、マーケティング戦略、ブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
前回(第19回)では、「顧客満足を実現するための組織のあり方とは?」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第19回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
逆さまのピラミッド型組織や事業単位の分割など、マーケティング戦略を有効に実行して顧客満足度を高めるための組織のあり方についてご説明しました。
さて、今回のテーマは「インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングとは?」です。
実は、伝統的なマーケティングの考え方だけでは、顧客満足を実現するのが難しいことが分かってきました。
そこで、インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングという考え方が提唱されるようになってきています。
これらは具体的にはどのようなものなのでしょうか?
そこで今回は、インターナル・マーケティング及びインタラクティブ・マーケティングについて具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
1.伝統的なマーケティングとは異なる側面のマーケティングとは?
顧客満足度を高め、継続的に顧客からの支持を得るためには、4Pを中心とする伝統的なマーケティング(=エクスターナル・マーケティング:企業と顧客との間のマーケティング)を適切に設計・実行するだけでは足りなくなってきています。
顧客にとって価値あるものを生産して提供するのは、企業の中で働いている従業員です。
従業員が前向きな姿勢で長く働いてくれるほど、企業の中に経験値やノウハウが溜まって生産性が上がり、また、顧客満足度も向上します。
しかし、退職率が高い社内環境では、顧客満足を実現するようなマーケティング活動を継続的に行うのはとても無理です。
目標達成のために優秀な人材を採用し、あるいは、企業の中に引き止めておくためには、従業員の求める条件を会社が備えなければなりません。
そのため、従業員満足度の向上を目的とした会社内部のマーケティング活動である「インターナル・マーケティング」が必要になってきています。
他方、テーマパークや観光施設での顧客体験のように、顧客が売り手の提供する製品やサービスを購入するプロセス自体(体験価値)を重視する場合も増えてきました。
そこでは従業員と顧客との間の双方向のコミュニケーションが行われ、その質によって顧客満足度が左右されるようになっています。
そのため、従業員と顧客の間で双方向のコミュニケーションを通して行われるマーケティング活動である「インタラクティブ・マーケティング」も重視されるようになってきています。
したがって、現代のマーケティングでは、伝統的なマーケティングに加えて、インターナル・マーケティングとインタラクティブ・マーケティングの3つが揃って初めて、企業は顧客満足のためのマーケティング活動を継続的に行うことができるのです。
以下で詳しく見ていきましょう。
2.インターナル・マーケティングとは?
「インターナル・マーケティング」とは、組織に対する従業員の愛着・信頼の向上や、人事コストの低下及び組織のパフォーマンス力向上を目的とした従業員を対象とするマーケティング活動のことです。
すなわち、どの会社で働くかの選択権を持っている従業員に対して、他の会社ではなく自分の会社で働き続けることを選んでもらうために会社が働きかけていくマーケティング活動です。
伝統的なマーケティングでは、製品・サービスを生産し提供する企業が売り手であり、市場(買い手)は顧客です。
それに対して、インターナル・マーケティングでは、仕事内容や待遇及び勤務形態などを提供する企業が売り手であり、市場(買い手) は求職者や従業員などの人材です。
よって、インターナル・マーケティングにおけるマーケティング・ミックス4Pは、仕事内容が「製品(Product)」にあたり、給与などの待遇が「価格(Price)」、通勤場所や勤務形態が「流通(Place)」、採用活動が「プロモーション(Promotion)」に当たります。
企業は人なりといいます。
顧客に継続的に支持してもらうための顧客満足も、それを生み出しているのは企業の中の人です。
したがって、インターナル・マーケティングにおいても、顧客満足度向上に資する人材を採用・育成していくために、効果的なマーケティング・ミックス4Pを作り上げて人材に働きかけていかねばなりません。
そして、顧客と従業員との接点が近い企業ほど、高い顧客満足を得るために、顧客と接するあらゆる従業員を継続的にトレーニングして育成する必要があります。
社員研修やコーチングなどのトレーニングでは、行動変容や意識醸成を目的とした動機付けを行います。
言うまでもなく、個々の従業員は、企業の理念や目的を理解し、顧客価値を提供するチームの一員であるという自覚を強く持たなければなりません。
前回の記事(19回)でもご紹介したスカンジナビア航空の例を見てみましょう。
航空業界最年少CEOであるヤン・カールソン氏の指揮のもと、「真実の瞬間(=従業員が顧客に接する15秒間)」におけるサービス力を向上させるために、全従業員が特別のトレーニングを受けたそうです。
顧客調査の結果によれば、従業員の顧客に対するサービス力向上が会社再建の成否を左右すると、同氏は考えたからです。
トレーニングの内容もさることながら、会社が彼らに莫大な時間と資金を投じてくれたという事実が従業員の多くに感銘を与え、士気が高まりました。
現場スタッフに大きな裁量権を与えた「逆さまのピラミッド型組織」への組織改革とともに(→詳しくは前回記事(19回)を参照)、会社が社員に対して学ぶ機会を提供したことによって、同社は顧客価値を重視する会社へと変身することができました。
その結果、初年度に8千万ドルの収益増を達成し、1983年には『フォーチュン』誌が選ぶ「ビジネス旅行客にとって世界最高の航空会社」と評価されるほど、ブランド力のある航空会社になったのです。
もう一つ、ディズニーランドの例を見てみましょう。
ディズニーランドは最も有名なテーマパークの1つであり、施設やアトラクション、従業員のパフォーマンスによって顧客が楽しめる体験を提供しています。
テーマパークは、顧客と従業員との関わり合いが非常に密接であり、従業員によるサービスの質がそのまま顧客満足に直結するビジネス・モデルです。
そのため、インターナル・マーケティングにより従業員満足度の向上を図ることで、ディズニーで働く誇りを従業員に抱かせています。
前回の記事でご紹介した「サービス・プロフィットチェーン」の考え方によれば、従業員満足度の向上が顧客に対するサービスの質の向上につながる好循環を生み出すからです。
具体的には、従業員の行動変容や意識醸成のための動機付けとして、ディズニーでは人の呼び方にもこだわっています。
全ての来園者を「ゲスト」と呼び、ゲストをお迎えしておもてなしする全ての従業員を「キャスト」と呼んでいます。
これにより、従業員全員がキャスト(出演者)としてショーを演じ、顧客を楽しませる役割があることを従業員に意識づけています。
そのため、アトラクションの出演者は「アトラクションキャスト」、通りの清掃係は「カストーディアルキャスト」、駐車場における自動車誘導の担当者は「パーキングロットキャスト」などと呼ばれています。
それぞれの従業員がそれぞれの持ち場で、ディズニーが顧客に提供するショー空間の中の出演者として振る舞っているのです。
バブル崩壊以降、全国の多くのテーマパークが廃業に追い込まれる中、ディズニーランドはインターナル・マーケティングにも力を入れることにより人気を保っています。
3.インタラクティブ・マーケティングとは?
現在の市場では、顧客の価値観やニーズの多様化により、使い方の説明までサービスとして含まれる健康器具・パソコンなどの製品や、テーマパーク・旅行業・観光業などの「豊かな顧客体験」を提供するサービスが求められています。
こういった従業員と顧客との関係性が密接な一部の製品やサービスにおいては、それが売り手によってどのように買い手に提供されるのかというプロセスの質、つまり、売り手と買い手との相互のコミュニケーションの質が重視されます。
これによって、顧客満足度及び企業の評価が左右されるからです。
そこで、従業員と顧客の間の双方向のコミュニケーションを通じて行われるマーケティング活動である「インタラクティブ・マーケティング」が注目されています。
特にテーマパーク・旅行業・観光業などの「豊かな顧客体験」を提供するサービス企業では、これがビジネスの成否の鍵を握っています。
スカンジナビア航空の例について見てみましょう。
同社は、顧客に運輸サービスを提供している企業です。
従来、同社には、少数の経営陣の意思決定をデータ面で支えるために40人からなる市場調査部門がありました。
しかし、これは組織改革の一環として廃止されました。
顧客満足度向上のために、顧客に直に接している従業員に現場の意思決定権のような大きな裁量権を与えたためです。
映画『踊る大捜査線』の中で「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きてるんだ!」という青島刑事のセリフがあります。
問題が生じるたびにいちいち会議室の中の経営陣の意向や許可を確かめていては、柔軟かつ機動的な顧客サービスができずに、顧客が不満を募らせてしまいます。
市場調査部門が提示するデータをもとに経営陣が判断するのを待ってからでは、顧客対応としては遅いのです。
これでは、貴重な顧客との接点(=タッチポイント)であるにもかかわらず、顧客満足度を向上させることは到底できません。
むしろ、どうしたら顧客満足を実現できるかのヒントとなる情報は、市場調査部門ではなく、直接顧客と接している現場スタッフが持っているのです。
そのため、同社は現場重視の姿勢を打ち出すため、市場調査部門を廃止し、現場スタッフに大きな裁量権を与えました。
次に、ディズニーランドの例も見てみましょう。
ディズニーランドでも、顧客と従業員の接点を重視しています。
顧客に園内での体験を心ゆくまで楽しんでもらうために、キャストはゲストに何かを尋ねられた時に「それは私の仕事ではありません」と答えないように教えこまれます。
そっけない対応をせずに親切に応じることを全キャストに徹底しているのです。
また、厳しい身だしなみの規定を設けて、清潔感や統一感を維持しています。
これにより、顧客に不快感や違和感を抱かせないように配慮しています。
例えば、男性キャストは髭を剃らなければなりませんし、短髪でなければなりません。
女性キャストは、爪の長さやマニキュアの色が制限され、大きな髪飾り、濃いアイ・メイク、長く垂れ下がったイヤリングなどは禁止されています。
以上の取組みは全て、ディズニーが提供する顧客体験の世界観を守るためです。
このようにディズニーランドは、インタラクティブ・マーケティングの一環として、全従業員に顧客価値を提供していることへの自覚を抱かせ、同時に、顧客に提供するサービス内容に細心の配慮をしているのです。
以上、リーダーやマーケターの方は、伝統的なマーケティングに加えて、インターナル・マーケティングやインタラクティブ・マーケティングも取り入れて顧客満足度の向上を実現させましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第21回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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