リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第2回)  〜そもそも「マーケティング」って何?~

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リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第2回)
〜そもそも「マーケティング」って何?~

 

こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。

「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、
リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。

このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。

さて、今回は「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第2回)」として、「マーケティングって何?」というテーマで説明していきたいと思います。

それでは行ってみましょう!

 

1.マーケティングの本質に対する誤解とは?

 

マーケティングという言葉がビジネス界を中心にもてはやされています。

市場が成熟し、商品・サービスが行き渡り、
類似のものが溢れかえっているため、売れない時代となっています。

そのため、各企業は生き残りをかけて、
商品・サービスのマーケティングに力を入れるようになっています。

しかし、マーケティングの意味が正確に使われていることは少ないです。
例えば、市場調査や販売促進だけを捉えてマーケティングと称していることなどです。

確かに、それらはマーケティングの重要な一側面ではあります。
しかし、全体像を捉えているものではなく、意味を誤って捉えていることが多いのです。
いわば、マーケティングという言葉だけが一人歩きしている状態と言えます。

したがって、まずはマーケティングという言葉の意味について、その本質にさかのぼって理解する必要があります。

 

2.3つのビジネス・コンセプトとは?

 

マーケティングの本質を理解するためには、
・「製品コンセプト」
・「販売コンセプト」
・「マーケティング・コンセプト」
という3つのビジネス・コンセプトについて知っておく必要があります。

以下、それぞれのコンセプトの内容を説明していきます。

 

 2-1.「製品コンセプト」とは?

 

「製品コンセプト」とは、
<顧客が求めているのは、価格が手頃で品質的に優れた製品だ>
<優れた製品を提供しさえすれば、自然に売れる>
という前提に立って、優れた製品の提供を追求しようとする考え方です。

製品コンセプト中心の売り手は、
<良いものさえ作れば売れる>と考えていますから、
製品の改善・改良に重点を置き、
企業風土としては職人気質的な思考が強くなる傾向があります。

実際、高度成長時代の日本は「ものづくり大国日本」と言われ、
良い製品をより安く売ることで、世界第二位の経済大国にまでのし上がることができました。

そのため、かつての日本や現在の東南アジアのような、需要が供給を上回っていたり、新技術が生まれやすい成長市場では、製品コンセプトが有効です。

 

ただし、「製品コンセプト」が強すぎると、悪い意味での職人気質に陥ってしまいます。
つまり、顧客ニーズを軽視するような独善的で、視野が狭い姿勢になりがちなのです。

これは、目の前の製品作りに集中しすぎてしまい、
顧客の真のニーズを理解し、それに応えようとする姿勢が失われるからです。

例えば、<良いネズミ取り>の話があります。

売り手が製品コンセプトにとらわれすぎるあまり、
「既存のネズミ取りよりも優れた改良品さえ作れば、必ずヒットするだろう」
と思い込んだため、市場を奪われ没落していく話です。

顧客が本当に求めているのは、
ネズミ取りという製品そのものではなく、あくまでネズミの駆除であり、家の中にネズミがいない快適な生活なのです

つまり、顧客からすれば、真のニーズを満たしてくれる製品であれば、ネズミ取りという製品そのものにこだわる必要はありません。
こういった顧客のニーズを満たすには、薬品や駆除業者という別の解決策もあります。
別の解決策で満足できるのであれば、顧客はそちらの方を購入することになるのです。

また、<ドリルを売るなら穴を売れ>という有名な話もあります。

工具店にドリルを買いに来た顧客が、店員から既に穴の開けられている板を紹介されたため、その板の方を買ったというお話です。

これも、顧客の真のニーズは穴が開いている板であって、ドリルそのものを欲しいわけではないということを示しています。

さらに、音楽を聴くための製品も、ラジカセ→ウォークマン→ CD→MD → スマートフォンへのネット配信というように進化してきました。

顧客は、音楽再生機器そのものよりも、好きな音楽を聞きたいときに、聞きたい場所でお手軽に聴けるという環境を求めているのです。

 

以上のように、製品コンセプトが強すぎると、
顧客ニーズを感じ取ることができず、どんなに高性能でも売れない製品を作り続けてしまいます。

したがって、製品コンセプトの弊害として、真の顧客ニーズを見落としがちになってしまうことに注意しましょう。

 

 2-2.「販売コンセプト」とは?

 

次の「販売コンセプト」とは、
類似品で溢れている成熟市場において、売り込みとプロモーション努力に頼ろうとする考え方です。

実際、成熟市場では、売り手は価格勝負に出るか、販売員による売り込みや、プロモーション勝負に出ることになります。

不毛な低価格競争に陥らないためには、販売コンセプトは有効な考え方であるといえます。

しかし、販売コンセプトが強くなりすぎると、
生き残りのために販売数字にのみ意識が集中しがちになります。
「とにかく目の前の顧客に買わせさえすれば良い」と考えがちなのです。

そのため、短期的利益を目指す企業風土になり、
顧客との長期的な信頼関係を構築しようとする努力が軽視されます。

また、新規顧客獲得に追われ、アフター・フォローをするだけの余裕もありません
不満を抱く顧客の声に耳を傾けることもなく、顧客をリピーター化することができません。

ある調査では、製品に満足している顧客の口コミの量よりも、不満を抱いている顧客のそれが3.3倍ほど多いことが明らかになっています。
これでは、顧客が継続的に自社製品を買ってくれるサイクルができません。
それどころか、顧客がどんどん減っていきジリ貧になってしまいます。

つまり、販売コンセプトが強すぎると、
長期的な視点での顧客満足への配慮がおろそかになりやすく、企業の持続可能性という点でマイナスなのです。

したがって、販売コンセプトは、顧客満足への配慮を欠かさないという条件のもとで成立する考え方になります。

 

 2-3.「マーケティング・コンセプト」とは?

 

最後の「マーケティング・コンセプト」とは、
標的市場の顧客ニーズを調査・研究し、ニーズを満たす製品を提供し続けようとする考え方です。

成熟市場では類似製品が溢れており、顧客のニーズも多様化しています。
そのため、売り手の側が良い製品だと思うものを作っても、顧客ニーズにかなったものでなければ売れません。

したがって、マーケティングの理想は、
販売活動が不要になるところまで顧客ニーズを知り尽くすことになります。

顧客ニーズを把握し、それに合致した製品を提供できれば、売り込みやプロモーション活動に頼らなくても、自ら売れていくからです。

著名な経営学者のピーター・ドラッカーは、
マーケティングの狙いはセリング(販売=売り込むこと)を不要にすることである。
マーケティングの狙いは、顧客を知り尽くし、理解し尽くして、製品やサービスが顧客にぴったり合うものとなり、ひとりでに売れるようにすることである。
理想を言えば、マーケティングの成果は買う気になった顧客であるべきだ。
そうなれば、後は製品やサービスを用意するだけで良い。」
と述べています(ドラッカー、1973年) 。

また、マーケティングの神様と言われる経営学者のフィリップ・コトラーも、
マーケティングとは「人間や社会のニーズを見極めてそれに応えること
であると述べています(コトラー&ケラー、2014年)。

マーケティング・コンセプトが製品コンセプトや販売コンセプトと大きく異なる点は、
売り手の視点の違いにあります。

製品コンセプト販売コンセプトは、
売り手中心の「内から外へ(プロダクトアウト)」という視点です。

これは、売り手の生産現場や既存製品を発想の出発点としており、
悪い意味での職人気質による自己満足や、顧客ニーズ軽視の顧客獲得が目標とされやすくなります。

他方、マーケティング・コンセプトは、
顧客中心の「外から内へ(マーケットイン)」という視点に立っています。

これは、顧客ニーズを発想の出発点としています。
あらゆるビジネス活動が、市場の性格の把握と顧客満足の実現に向けられた「顧客志向」に立っているのです。

なお、家電・寝具・インテリアの販売などで有名なアイリス・グループでは、
さらに一歩進めた「ユーザーイン」を掲げています。
大山健太郎会長が提唱された考え方です。

人の生活に関わる製品を提供する以上は、
各々のライフスタイルや身体的特徴にかなったものでなければならないためです。
ターゲット市場の平均的な要望ではなく、
各ユーザーの使用場面を深く考えた製品でなければ生き残れないのです。

また、マーケティング・コンセプトでは、
短期的なオペレーション効率というよりも、顧客との長期的な信頼関係の構築を追求します。

そのため、目の前の効率性を追求する「戦術的思考」よりも、俯瞰的な視点を要求する「戦略的思考」が求められます。

以上より、マーケティング・コンセプトは、
顧客ニーズのより細かい分析が求められる成熟市場において有効な考え方です。

ただし、組織内への浸透に時間を要します。
顧客との長期的な信頼関係構築を実現するために、全社的な組織改革が必要になってくるためです。

現在、各企業は生き残りをかけて、
社内研修やコーチングを導入することで組織改革を行っています。

 

3.マーケティングの概念はどのように進化し続けているのか?

 

インターネットやSNSの発達により、
売り手と顧客とのコミュニケーションのあり方が変化してきています。
また、個人の価値観やライフスタイルなどの多様化もますます進んでいます。

そのため、マーケティングの本質的な考え方もどんどん進化しています。

その点につき、コトラー教授は、
マーケティング1.0から2.0、3.0、そして4.0へと段階的に進化していると述べています。

 

 3-1.マーケティング1.0とは?

 

1950年代、米国の技術革新によって大量生産・大量販売が可能となり、製品の生産コストが引き下げられました。
より安価な製品を市場全体の顧客に普及させることができるようになったのです。

そのため、マーケティング1.0(製品中心のマーケティング)では、
製品自身が持つ機能を価値として提供し、製品をどのようにして売るのかに考え方の重点が置かれます。

 

 3-2.マーケティング2.0とは?

 

1970~80年代にかけて、製品が社会に行き渡り需要が満たされるようになると、類似の製品が市場に溢れ、競争が激しくなりました。
市場をより細分化して、真の顧客ニーズをつかみ、差別化を図ることが必要になってきたのです。

そのため、マーケティング2.0 (顧客中心のマーケティング)では、
製品そのものが持つ機能的な価値と、顧客の精神的な満足感を提供する情緒的価値を追求し、より細かい顧客ニーズに合ったものを売ることに考え方の重点が置かれます。

 

 3-3.マーケティング3.0とは?

 

1990年代以降、必要なものはより一層社会に行き渡り、また、インターネットの普及に伴い、顧客の価値観の多様化やライフスタイルの変化などが起こりました。
顧客は自身の消費生活上の課題にとどまらず、社会の中でいかにあるべきかといった精神的な充足感を重視するように変化したのです。

そのため、マーケティング3.0 (社会中心のマーケティング)では、
機能的な価値と、情緒的価値に加えて、社会的価値の提供が重視され、売り手は顧客が感じる社会的な意義を重視するようになります。

 

 3-4.マーケティング4.0とは?

 

マーケティング4.0は、
SNSの発達・普及に伴うデジタル時代の消費者傾向の変化に対応するために、新しく提唱された概念です(2016年)。

売り手と顧客がオンラインとオフラインを活用して交流することで、関わり合いの多様性を強化していきます。

狙いは、顧客自ら売り手や製品を自発的に「推奨」する応援者になってもらうことです。

したがって、マーケティング4.0 (人間中心のマーケティング)では、
顧客にいかに自発的に売り手のマーケティング活動に参加してもらうかが鍵になります。

そのため、売り手は顧客の価値観やライフスタイル、購買行動などについて、色々なデータを活用して把握するように努めます。

最終的には、顧客の人生に「驚きと感動」を提供することが重視されます。

ただし、ここで注意すべきなのは、
1.0は古いので使い物にならないというわけではないことです。
また、4.0が最新なので、これからはそれを目指すべきだということでもありません

いつの時代も変わらないマーケティングの本質的な考え方は、顧客ニーズを深く理解し、それに合った製品を提供し続けることです。
つまり、顧客ニーズをいかに満たすかが不変の中心的な課題なのです。

成長市場であるなどのいくつかの条件が整った市場であれば、現代でも製品中心のマーケティングが有効である場合もあります。
逆に、環境や資源にも配慮した持続性ある社会の実現が前提とされている市場では、社会的な価値を提供するマーケティングが求められます。

よって、売り手がマーケティング1.0~4.0のどの考え方で事業を展開するかは、標的市場の特徴や時代の流れから個別的に判断していく必要があります。

前回記事の「戦略的思考とは」でもご説明しましたように、どういったマーケティング戦略を採用するかについては、①大きく、②未来を、③論理的に考えていきたいものですね。

 

 

以上、最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。

次回は、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第3回)」をお届け致します。

リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。

 

<主な参考文献>

 

この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。

①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。

もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。

ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)

 

①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)

②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)

③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)

④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)

⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)

⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)

⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)

⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)

⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)

⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』(有斐閣、2016年)

⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)

⑬金谷治訳注『岩波文庫 新訂 孫子』(岩波書店、2001年)

 

マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。

手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。

これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。

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