リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第13回)
〜ポジショニングとは?(後編)~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
さて、前回の記事(第12回)では、「ポジショニングとは?(中編)」をご説明しました。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第12回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
ポジショニングにおけるUSPの重要性や、陥りがちな3つのミス、そして、リーダーとして適切なポジショニング設計のために考えるべきこと等のお話でしたね。
「ポジショニングの必要性や、やってはいけないミスなどは分かったけど、逆に、ポジショニング設計に欠かせない本質的なものは何だろう?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。
そこで、今回は「ポジショニングとは?(後編)」として、ポジショニングの設計で欠かせない本質的な点や、新製品開発と顧客満足とのいたちごっこなどについて具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.ポジショニング設計で欠かせない2つの本質的なイメージとは?
ターゲットセグメント(=標的市場)での競争に勝ち抜くためには、適切なポジショニング設計により、自分の製品を顧客に選んでもらうようにしなければなりません。
そのために、ポジショニング設計では、差別化のための「相違点連想」と、ライバル製品に見劣りしないための「類似点連想」という2つの本質を備える必要があります。
以下、この2つの本質について具体的に見ていきましょう。
1-1.相違点連想とは?
現在は顧客の価値観やニーズが多様化しており、顧客ニーズに適切にマッチした製品を作って提供しなければ、顧客から選んでもらえません。
また、ターゲットセグメントの中には、多くのライバルも参入し、類似の製品で溢れかえっています。
そのため、顧客の頭の中でライバルの類似製品と比較された時に、自分の製品について独自性のあるイメージを抱いてもらえるように訴えかけていく必要があります。
そもそも、ポジショニングの目的は、顧客の頭の中における製品イメージ(=セグメント内での立ち位置)の明確化にあります。
その目的達成のためには、売り手は自分の製品のUSP(=独自の売込みポイント)を明確化して固く守り、それを繰り返し顧客に訴えかけていかねばなりません。
したがって、売り手は、自分の製品について適切なポジショニング設計を行うことで、顧客の頭の中における製品イメージのUSPを明確化し、選んでもらえるようにしていくのです。
マーケティング・ミックスの1つであるプロモーション(=広告などによる情報提供)の分野でも、ライバルにはない購買理由を顧客に抱いてもらうために、製品のどのような側面を切り取ってイメージ化し、それをどのように訴えていくべきかが重要になります。
それでは、どういう点に注意して自分の製品イメージの差別化を図っていくべきでしょうか?
その答えは、顧客の頭の中で繰り広げられる製品イメージの連想を分析することにより得られます。
ポジショニングというものは、顧客の頭の中で作られる類似製品との比較イメージだからです。
そこで、実際にアンケート調査などを実施することにより、製品選択の理由について、顧客が抱いているイメージをもとに分析してみると良いでしょう。
数々の調査結果では、製品選択の主な理由としては、ブランド連想のユニークさにある場合が少なくないことが明らかになっています。
ここで「ブランド連想」とは、あるブランド(=特定の生産者による製品とその全体的なイメージ)と様々な項目とのイメージ上の結びつきのことです。
イメージ上の結びつき先となる項目は、製品自体の品質、性能、機能、使用場面などのイメージということがあります。
また、それに加えて、テレビCMや広告などで見たその製品を使う人気俳優のイメージということもあります。
そして、ライバル製品には見られない、差別化されたブランド連想のことを「相違点連想」と呼んでいます。
例えば、ジーンズ「Lee」のブランド連想について見てみましょう。
「Lee」のジーンズは、青いデニムの素材で作りが丈夫という品質・性能面のイメージと結びついているとともに、カジュアルなシーンでの着用といった使用面でのイメージとも結びついている製品です。
また、古くはハリウッド俳優のジェームズ・ディーンが映画『理由なき反抗』の中でLee101をかっこよく着こなしたイメージとも相まって、長らく人気の製品になっています。
顧客が抱く製品イメージの調査結果や人気製品の実例などを見ますと、顧客による購買を引き起こすためには、イメージ上の結びつき先となる項目のユニークさ(独自性)が必要ということが分かります。
この点について、ブランド研究で著名なダートマス大学タック経営大学院教授のケビン・ケラー氏は、強いブランド連想作りの本質について次のように繰り返し主張しています。
強いブランドであるためには、「強く、好ましく、そして、ユニークなブランド連想が必要」である。
したがって、適切なポジショニング設計のために欠かせない1つ目の本質として、まずは、顧客に相違点連想をさせるようなイメージ作りを考えていきましょう。
1-2.類似点連想とは?
適切なポジショニング設計のための本質として、製品イメージのユニークさは当然ですが、それだけでは充分ではありません。
いくらライバルの類似製品にはないユニークさがあったとしても、他の多くの製品が標準的に備えている品質や性能、機能において見劣りするイメージを持たれてしまっては、顧客は選んでくれないからです。
顧客が通常期待している何らかの重要な品質や性能、機能が著しく劣っているというイメージをもたれますと、その時点で、顧客の頭の中で選択する候補から外されてしまうのです。
したがって、適切なポジショニング設計のための2つ目の本質として、類似点連想という必要条件を満たさなければなりません。
「類似点連想」とは、ライバル製品と比較して、品質、性能、機能が同等以上の水準を満たしていると捉えられているイメージのことです。
つまり、他の多くのライバル製品と比較しても見劣りしないというイメージになります。
実際、家電製品や食品などの売り場を覗いてみますと、各社が販売しているそれぞれの製品は、重要な品質や性能、機能における違いがほとんど見られません。
細かい違いを打ち出して差別化しようとはしていますが、大きく見ればどの製品を選んでみても大きな違いはほぼないといったコモディティー化(同質化)が進んでいます。
宅配サービスといった無形のサービスでも、翌日配送や地帯均一料金などの基本的な部分は宅配業者による違いがほとんど見られず、コモディティー化しています。
コモディティー化が進む現在の競争環境では、それぞれの売り手の製品間で重要な品質や性能、機能の面での著しい違いが見られることはまれです。
有力な売り手の製品の多くは、ほぼ全てがコモディティー化しているといえるでしょう。
したがって、適切なポジショニング設計によって相違点連想や類似点連想という本質的な条件を満たすことで、自分の製品を顧客から選ばれるようにしていきましょう。
1-3.競争的類似点連想とは?
「競争的類似点連想」とは、ライバル製品との異なるイメージを打ち消すことを目的として、ブランド連想を構築する戦略です。
つまり、ライバル製品がユニークさを打ち出して競争上の優位さを狙ってきた場合に、こちらはあえて同質化戦略をとることでそのユニークさを打ち消し、中和させてしまうのです。
資本力や製品開発力に余裕がある業界最大手のリーダー企業が、その地位を守るためによく使う戦略です。
そして、同質化の程度としては、ライバル製品の独自性を中和させるのが目的なので、自分の製品とライバル製品との大きな違いを感じさせない程度であれば良いでしょう。
競争的類似点連想を使うことにより、ライバル製品の強みを打ち消した上で、自分の製品の強みを差別化して顧客にアピールするのが得策です。
したがって、ポジショニングの目的である差別化された製品イメージの明確化を図るためには、ユニークさとともに類似点へも注意を払った設計をするようにしましょう。
具体例として、クレジットカード業界を見てみましょう。
従来、業界のリーダーは「AMEX」でした。
プレステージ性やステータス性を前面に打ち出して差別化を図り、優位なポジションを築いていました。
他方、ライバルの「VISA」は、適切なポジショニングの設計によって、追いつき追い越すことを考えました。
具体的には、まず類似点連想によって、少なくとも「AMEX」のステータス性とほぼ同等のイメージを作り上げることにより、その優位性を中和する必要がありました。
そして、それだけでは顧客が自分のサービスを選ぶ理由にはなりませんので、さらに何らかの相違点連想を作り出す必要もありました。
そこで、「VISA」は、ブランドとしての優位性を構築するために、ゴールドカードとプラチナカードを開発し、市場に提供したのです。
続いて、「VISA。皆さんが行きたいと思うすべての場所に」というスローガンを用い、新しい広告キャンペーンを展開することで、「AMEX」との差別化を図ることに成功しました。
実は、「AMEX」はその利用場所が限られているという不便さがありました。
そこで、「すべての場所に」というフレーズを盛り込むことで、「VISA」のUSPとなる利便性を顧客に訴えかけたのです。
2.新製品開発と顧客満足のいたちごっことは?
それぞれの売り手は、生き残りを図るために、顧客ニーズを満足させるような新製品を開発して提供します。
新製品の開発・提供により、顧客ニーズは一時的に満たされます。
しかし、新製品が市場に行き渡って飽和状態になりますと、売れなくなるため、それぞれの売り手はまたさらなる新製品を開発・提供することで顧客に新しい価値を提示するようになります。
つまり、それぞれの売り手は、次々と顧客に新しい価値を提示することにより、高いレベルでの顧客満足を生み出すことで市場を拡大したり創造したりしてきたのです。
新製品の開発・提供により引き上げられた顧客の満足水準は、それ以降は顧客にとって当たり前の水準になり、そのうちマンネリ化していきます。
そこでまた、それぞれの売り手は生き残りを図るために、新製品の開発・提供によって新たな価値を顧客に提供していくのです。
したがって、新製品の開発・提供によって一時的に顧客ニーズが満たされることはあっても、それが永遠に続くことはなく、顧客は永遠に満足することはないといえます。
いわば、顧客ニーズの満足と新製品の開発・提供というのはいたちごっこであり、無限の連鎖が続いていくのです。
3.人類社会の発展におけるマーケティングの役割とは?
以上のように、人類社会では、顧客ニーズを満たすための新製品の開発・提供をしては、さらに要求水準の上がった新たな顧客ニーズを満たすためにさらなる新製品の開発・提供をするといった「いたちごっこ」が続いていきます。
「いたちごっこ」というと悪いイメージもあるかもしれませんが、実はこれこそが人類社会を発展させてきたといえます。
生き残りを図るための売り手のマーケティングこそが、顧客ニーズを満たすための新製品の開発・提供につながり、人類社会に新たな価値を生み出しているのです。
したがって、マーケティングは、新たな価値を生み出し続けることで、自分のためのみならず、人類社会の発展に貢献するという役割があるといえます。
逆に、人類社会の発展に貢献しないマーケティングは、顧客から受け入れられず、見直しを迫られることになるでしょう。
以上、リーダーの皆さんは、マーケティング戦略の考え方を学ぶことで新たな価値を生み出し、人類社会の発展に貢献できるように頑張っていきましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第14回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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