リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第11回)
〜ポジショニングとは?(前編)~
こんにちは。戦略マスター頼朝と申します。
「誰もが優れたリーダーになれる!」を信念に、リーダーシップ論及びブランディング戦略の研究と、コーチング・メソッドによるリーダーシップ指導をしております。
このブログでは、リーダー初心者の方のためのお役立ち知識を解説して参ります。
さて、前回の記事(第10回)では、「ターゲティングとは?」をご説明しました。
効果的なマーケティング・ミックスを設計するために、セグメンテーションによって顧客ニーズごとに市場を細分化し、細分化された市場(セグメント)のうちどのセグメントをターゲットとするかというターゲティングのお話でしたね。↓
リーダー初心者のためのマーケティング入門(第10回) | 戦略マスター頼朝 リーダーのための勉強部屋 (sales-writing.com)
ターゲティングの次は、STPの最後、すなわち、ポジショニングの検討をしていきます。
そこで、今回のテーマは「ポジショニングとは?(前編)」です。
ターゲットとするセグメント市場には、他にもライバルの売り手が参入しており、顧客獲得をめぐって競争状態にあるのが一般的です。
例えば、ポテトチップスなどのお菓子類は、スーパーやコンビニの棚に似たような製品がたくさん置かれています。
そのため、売り手は、多くの類似の製品の中から自分が提供する製品を顧客から選んでもらわなければなりません。
つまり、売り手側の戦略としては、顧客が数ある類似製品の中から自分が提供する製品を選ぶための理由作りをすることが必要なのです。
したがって、顧客の頭の中に他の類似製品とは異なるイメージを持ってもらい、自分の製品を選んでもらうため、売り手はポジショニングを検討していきます。
それでは、「ポジショニング」とはどういうものなのでしょうか?
そんな疑問をお持ちのリーダー初心者の方のために、今回は「ポジショニング」について具体的にご説明して参ります。
それでは行ってみましょう!
目次
1.ポジショニングとは?
「ポジショニング」とは、
顧客の頭の中に自分の製品のイメージをどのように位置づけたら良いのか、どのように見られたいのかということを明確化する作業のことです。
ターゲットセグメントを決定したら、その次はターゲットセグメントの中での「製品のポジション(位置付け)」を明確化する作業に入ります。
前述のように、ターゲットセグメントの中で繰り広げられるライバル製品との競争に勝って、顧客に選ばれるためには、顧客側から見た売り手の製品のイメージが明確化されている必要があるからです。
例えば、外食産業のお店で言えば、
・フランス料理などの高級イメージ(商品軸)
・ファミリーレストランなどのお手軽イメージ(手軽軸)
・気心の知れた地域密着型の大衆食堂イメージ(密着軸)
などといった、顧客の中でしっかり区別できるイメージの明確化が必要です。
また、自動車産業の例も見てみましょう。
高級車好きな顧客が多いターゲットセグメントでは、
・ボルボ→「最も安全な自動車」
・BMW→「究極のドライビング・マシン」
・ポルシェ→「世界最高の小型スポーツカー」
というように、ライバルと差別化できるようなイメージの明確化を行っています。
つまり、「ポジショニング」とは、
ターゲットセグメント内でのライバル製品との差別化を図るために、自分の製品のイメージを明確化する作業のことなのです。
また、単独の製品だけでなく、お店や会社全体のイメージを明確化する作業のことも「ポジショニング」といえます。
なお、ポジショニングにおける製品イメージの明確化とは、ライバル製品との区別を図るためのものであるため、絶対的なものというよりは相対的なものです。
同じセグメント内で競争している類似製品どうしのイメージを顧客が比較検討することで決まるものだからです。
つまり、顧客の視点を軸とした、自分の製品とライバルの製品との関係性によってイメージが決まります。
したがって、ポジショニングは、製品自体の作り方に対して行われる検討作業というよりも、顧客の頭の中で抱かれるイメージに対してどのように働きかけるのかを検討する作業として捉える方が良いでしょう。
2.ポジショニングはいつの段階で決定するべきか?
ポジショニングを決定する時期としては、一般的には、製品が設計される前の段階がベストです。
決定されたポジショニングに基づいて製品を設計して完成させる方が、後の修正作業が少なく済んで効率的だからです。
逆に、製品が設計され、完成した後からポジショニングを確定する順序ですと、どうなるでしょう。
既になされた製品の設計や仕様、生産面での制約から多くの自由度が奪われているため、望ましいポジショニングを作り上げることが難しいです。
つまり、ポジショニングというのは、製品の設計や仕様、生産といったものの基本方針となるものなので、何よりも先に決定しておくべきものなのです。
したがって、製品の完成後にいろいろな制約の中で苦しみながら、そして、混乱しながら、ポジショニングを検討するようなことは避けるべきです。
そもそも、以前の記事でもご説明しましたように、STP、つまり、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの決定作業は、マーケティング・ミックスを効果的に設計するための準備作業にあたるものです。
したがって、マーケティング・ミックスの1つ「製品(product)」の内容を決める前に、自分の製品のポジショニング(イメージの明確化)を決定しておかなければならないのです。
もっとも、例外的な場合もあります。
既存製品の中には、顧客の中でのイメージがマンネリ化しているものや、売上げがずっと低迷しているものがあります。
そこで、既存製品の再活性化や低迷している製品の巻き返しを狙って、既存製品のポジショニングを変更する「リポジショニング(ポジショニングの再構築)」を行う場合もあります。
3.有効なポジショニングであるための3つの条件とは?
売り手側からのプロモーション活動などによる積極的な働きかけがないと、顧客側は製品のイメージを思い思いにポジショニングしてしまうのが一般的です。
これを放っておきますと、売り手側が訴えたい製品イメージと顧客側が抱く製品イメージがずれてしまうことになります。
最悪の場合には、売り手が提供する製品は、顧客の頭の中で独自のイメージを持たれることなく、いわば顔を失った状態になってしまいます。
つまり、品質的には何ら見劣りしないものであっても、類似製品の中で埋もれてしまい、顧客から選ばれなくなってしまうのです。
これでは、強い製品イメージの構築へと結びつきませんので、せっかく作った製品も売れません。
そこで、自分の製品イメージの独自性を生み出し、顧客から選んでもらえるようにするために、マーケター(マーケティング担当者)は、適切な切り口によるポジショニングの構築を考えるべきです。
例えば、医薬品市場で見てみましょう。
ライバルが提供する医薬品が「即効性」という切り口でポジショニングしていたら、翌日の仕事などに備えて早く病気の症状を治したい人に向けて訴えているということです。
この場合、同じ「即効性」という切り口で自分もポジショニングするとなると、より即効性が高い医薬品を研究開発するか、あるいは、低価格という別の切り口も加えて勝負しなければなりません。
ライバルよりも莫大な研究開発予算が必要だったり、不毛な低価格競争に巻き込まれたりするので、どちらもあまり得策ではありません。
そこで、自分が提供する医薬品では、「持続性」というライバルとは別の切り口でポジショニングすれば良いのです。
つまり、ライバルとは勝負する軸をずらすことで、独自性のあるイメージを顧客に持ってもらえるように訴えかければ良いのです。
こうすれば、ライバルと不毛な争いをすることもなく、独自のポジションを確立して共存共栄を図ることも可能です。
さらには、別の切り口の例としては、「眠くなりにくさ」「利便性」「胃への優しさ」などの切り口でポジショニングすることも有効です。
ただし、適切なポジショニングのためには、どのような切り口でも良いというわけではありません。
ポジショニングの目的は、顧客の中での自分の製品イメージの明確化にあります。
したがって、ポジショニングの切り口が有効であるためには、製品イメージの明確化につながるような条件を備えていなければなりません。
つまり、適切なポジショニングの切り口であるために、少なくとも以下の3つの条件を備えている必要があります。
3-1.重要性の条件とは?
第1に、「重要性」です。
多くの顧客にその製品の訴えるイメージの内容が重要であると感じてもらう必要があります。
顧客が重要性を感じない製品は、顧客の頭の中に明確なイメージとして残らないからです。
例えば、風邪薬であれば、即効性や胃にやさしい、眠くなりにくいなどのイメージは、重要性という条件を備えているといえます。
他方、風邪を治したい顧客からすれば、薬の色自体が何色であるかは重要ではないのが一般的であるため、薬の色は適切なポジショニングの切り口にはなりません。
3-2.独自性の条件とは?
第2に、「独自性」です。
ライバルの製品と区別がつきにくい、ありふれた既存の切り口では、顧客の頭の中に明確なイメージとして残りません。
したがって、有効なポジショニングの切り口と言えるためには、独自性の条件を満たすことが必要です。
例えば、風邪薬の場合、前述したようにライバルが既に「即効性」という切り口でポジショニングしているのであれば、自分の製品では「胃への優しさ」という切り口でポジショニングした方が良いでしょう。
ポジショニングは顧客が抱くイメージの明確化を図るためのものですから、切り口としてはむしろ、他とは違うユニークさを追求した方が良いのです。
3-3.優越性の条件とは?
第3に、「優越性」です。
ライバルが類似したポジショニングで参入してくることは、容易に想定できます。
また、自分が多角化を図るために、既存の製品と類似した切り口で新製品のポジショニングをすることもあり得ます。
ポジショニングは、数ある類似製品の中から自分の製品を選んでもらうために行うものですから、ライバルの製品や自分の既存の製品と比べて劣っているというイメージではいけません。
風邪薬の例で見ますと、「持続性」という切り口のポジショニングで競争しているライバルは多く見られます。
その中で、ライバルの風邪薬が24時間の持続性を訴えてポジショニングしているにもかかわらず、自分の製品が12時間の持続性を訴えたところで、顧客から見れば見劣りしてしまいます。
したがって、自分の製品のポジショニングは、ライバルの製品と比べて、何らかの点で優れたものであるとイメージさせることが必要なのです。
以上、リーダーの方は、適切な切り口で「ポジショニング」を行うことによって、ライバル製品との厳しい競争にも勝ち抜けるような<イメージの明確化>作業をしていきましょう。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。
次回の記事では、「リーダー初心者のためのマーケティング戦略入門(第12回)」をお届け致します。
リーダー初心者で日々のリーダーシップにお悩みの方は、ぜひ楽しみにしていて下さい。
<主な参考文献>
この「マーケティング戦略入門」講義ブログを書くにあたって、参考にさせて頂いたり、引用させて頂いた主な参考文献を以下の通りご紹介致します。
①から⑫へ進むほど、少しずつ説明のレベルや知識の網羅性が上がっていきます。
もっとも、①~⑧までは、どの書籍も入門レベルのものですので、あまりご心配には及びません。
実際に手に取ってみて、ご自身に合うものから読み進められると良いと思います。
ご興味をお持ちになられた方はぜひお近くの書店でお買い求めください。
(個人的にリアル書店の皆様を応援しております。)
①佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』(青春出版社、2010年)
②佐藤義典『新人OL、社長になって会社を立て直す』(青春出版社、2011年)
③中野明『14歳からのマーケティング』(SOGOHOREI、2017年)
④市川晃久『マーケティングで面白いほど売り上げが伸びる本』(あさ出版、2016年)
⑤青井倫一監修・グローバルタスクフォース㈱編著『新版 通勤大学MBA2 マーケティング』(SOGOHOREI、2013年)
⑥平野敦士カール監修『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社、2018年)
⑦弘兼憲史・前田信弘『知識ゼロからのマーケティング入門』(幻冬舎、2009年)
⑧恩蔵直人『日経文庫 マーケティング<第2版>』(日経文庫、2019年)
⑨沼上幹『有斐閣アルマ わかりやすいマーケティング戦略〔新版〕』(有斐閣、2008年)
⑩和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦『有斐閣アルママーケティング戦略〔第5版〕』
(有斐閣、2016年)
⑪河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 上巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
⑫河野安彦『内閣府認定マーケティング検定2級試験公式問題集&解説 下巻2020年度版』(公益社団法人日本マーケティング協会、2020年)
マーケティングを全く学んだことがない方は、①・ ②と③から読み始めると良いと思います。
手っ取り早く学びたい方は、① ・②と⑥を読めばマーケティングの全体像をつかめます。
これからマーケティングを本格的に学んでいきたい方は、①・ ②と⑥を読んだ後、⑧と⑨を読んで基礎固めを行い、その後に⑩~⑫へと読み進んでいかれると良いでしょう。
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